【大人になるために】内田樹『コロナ後の世界』

思想

こんにちは、アマチュア読者です。

今回ご紹介するのは、内田樹『コロナ後の世界』です。

思想家、武道家であり、合気道道場「凱風館」の館長でもある著者は、これまで数多くの論説、武道論、エッセイ、対談録などを世に出してきました。

ものごとの適否について、「それを行うことで集団の知的パフォーマンスが向上するのか」「そうすることで心身のパフォーマンスは最大化するのか」を基準にさまざまな論考を生み出し、その切り口は普通の人なら考えないような独特のものです。

読み終わった後に「何かしてみようかな」とアウトプットしたい気持ちにさせてくれる作品ばかりで、わたしはこれまで著者の作品をたくさん読んできました。

本書『コロナ後の世界』は、おもにブログやさまざまな媒体に投稿してきた記事からなるコンピレーションアルバムのような形ですが、本書にかぎらずこれまで著者が一貫して行なってきたとおり、その多くは大幅に改訂、加筆されています。

「自分の本をはじめて読む人の立場」を考えて、怠ることなく書き直すのが著者のポリシーです。まえがきで公言されているほどなので、いかに読者に対する礼節を守ることを心掛けているかがわかります。

「これはわたし宛のメッセージだ」というメタ・メッセージが多くの読者に届いてほしいという強い動機があるからこそ、著者の文章は読む者に語りかけてきます。

まるで自分と著者が一対一で対話しているような気持ちになります。

タイトルは『コロナ後の世界』ですが、内容はその他に国際社会の動向や反知性主義、共同体のあり方について、著者ならではの視点で語られています。

コロナ後の世界を生きていく中で、民主制を採用している国家(もちろん日本を含みます)の国民は、「大人になること」が求められると著者は言います。

国がまともであるためには、国民が個人としてまともでなければならないと思うこと、国に品位があるためには、国民が個人として品位あるふるまいをしなければならないと思うこと。そういった国民が一握りでもシステムの要路にいる必要があります。

なぜなら、そういう人たちは自分の生き方と国のあり方の間に強い相関を感じているので、危機的状況に陥ったときには国益を最大化するためにはどうすればいいかを自分に問いかけて、答えを得ることができるからです。

著者はアルベール・カミュ『ペスト』に登場する下級役人のグランを民主制社会における「大人」のモデルとして紹介しています。

昼間は役所で働き、夜は趣味で小説を書いている人物ですが、医師リウーと友人のタルーが保険隊を結成したとき、グランはいち早く志願します。

そしてペストが終息すると、何事もなかったかのように元の平凡な生活に戻ります。

わたしは以前カミュの『ペスト』を読みましたが、こういった解釈をせずにグランをサブキャラクターとして何となく把握していたにすぎませんでした。

『ペスト』を再読するときには、グランにも注意を払って読み進めたいと思います。

『ペスト』については以下の記事で紹介しているのでご参考にしてください。

今回は内田樹『コロナ後の世界』をご紹介しました。いまは世界的にコロナ禍にあえいでいる状況ですが、これからの世界をどう生きるべきかについてのヒントが詰まった一冊です。

ものごとに対する著者の深い洞察に、思わず感嘆の声を上げてしまいます。

ぜひ読んでみてください。

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