【泳ぐとは何か】 高橋秀実『はい、泳げません』

ノンフィクション

こんにちは、アマチュア読者です!

今回ご紹介するのは、高橋秀実『はい、泳げません』です。

ノンフィクション作家である著者は、本書をはじめこれまで数多くの作品を生み出してきました。

素直に自分の心の声を上げるスタイルは、いつも笑いとともに何か得るものがあったと思わされる読後感につながります。

わたしが初めて読んだ著者の作品は、『からくり民主主義』でした。

沖縄米軍基地や諫早干拓など、戦後の日本に輸入された民主主義が抱える問題を地元の人々にインタビューすることを通じて考察した本書は、教養本やノンフィクション作品という枠を越えて、とにかくおもしろかったです。

インタビューの中で交わされる地元民の生の声と著者の反応が絶妙で、著者が困って途方に暮れる様子が思い浮かびました。

『からくり民主主義』の文庫版解説は村上春樹ですが、著者の作品への向き合い方にふれていて共感した記憶があります。

村上春樹は「そうそう、これが言いたかったんだ」という気持ちを言葉で表現するのに卓越していますよね。

なぜ高橋秀実の作品で笑ってしまうのか

進むべき道を決めかねて道の真ん中でたたずむ著者には、何だか愛着が持てます。

この様子はこれまで読んできた著者の作品すべてに当てはまります。

たたずみながら何かを待っている、その何かに出会うことについては確信を持っているような書きぶりは、頼りなく思える自分をあきらめずに信じているからこそ生まれるのでしょう。

本書『はい、泳げません』では、カナヅチの著者が泳ぎを習いにスイミングスクールに通う中で経験したり考えたりしたことが綴られています。

ふつう活字の本の冒頭数ページで笑いが止まらなくなることって多くないと思うのですが、本書はその中の1冊でした。

別に笑いを取りに行こうと一生懸命になっているようには思えません。

どうして笑いが止まらなくなったのかというと、自分が足を踏み入れた水の世界で大変だと思ったことが、水に馴染みのある人からすると取るに足らないとしか思えないこととみなされ、そのギャップに対して著者が頼れるものを探しているような様子が想像できたからです。

こういうことって、始めたばかりの習い事でよく経験しますよね。

冒頭で引き込まれてしまった本書ですが、ただおもしろいだけで終わらないのが著者の卓越さです。

著者が泳ぐことに慣れていく中で、泳ぎについて哲学的に考え、自分の知らなかった体の使い方に感動する場面は読んでいて気持ちが高ぶりました。

こうやって本書を紹介する記事を書こうという気持ちにさせてくれたのは、著者が「生きる力」を高める言葉を本書に込めているからだと思います。

読んだ後に元気が出る本は貴重です。

映画化もされているので、目にとまりやすくなっているはずです。

泳ぎと仏教思想

本書には臨済宗を開いた臨済の『臨済録』が引用されています。

スイミングスクールでの話が多い本書ですが、禅の思想を参考に泳ぐことについて考える本というは珍しいと思います。

『臨済録』は額面通り読むと何を言っているのかわからないことだらけですが、言葉に頼らずに真理を掴もうとする様子はこの言行録から伝わってきます。

著者が泳ぐことに対して真摯に向き合う姿勢が伝わってくるとともに、笑わずにはいられない場面も多い本書です。

ぜひ読んでみてください!

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