【これは読んでほしい!】ロマン・ロランのおすすめ伝記3選

読書まとめ

こんにちは、アマチュア読者です!

今回はフランスを代表する小説家、評論家であるロマン・ロラン(Romain Rolland)のおすすめ伝記をご紹介します。

ロマン・ロランは1866年にフランス中部のクラムシーに生まれました。

大河小説『ジャン・クリストフ』をはじめとするヒューマニズムの立場で多くの作品を手掛け、第一次大戦、第二次大戦の渦中にあって平和主義と反ファシズムを掲げて活動し続けました。

ロマン・ロランは、心に拠って偉大であった人々だけを英雄と呼び、彼らの伝記を書きました。

思想もしくは力によって勝った人々を英雄とはみなさなかったのです。

人格が偉大でないところに偉人は無い。

偉大な芸術家も偉大な行為者もない。

あるのはたださもしい愚衆のための空虚な偶像だけである。

時がそれらを一括して滅ぼしてしまう。

成功はわれわれにとって重大なことではない。

真に偉大であることが重要なことであって、偉大らしく見えることは問題ではない。

『ベートーヴェンの生涯』

ロマン・ロランが物語ろうと試みた人々の生涯は、現在手にしている栄光とは裏腹に、ほとんど常に苦難に満ちた歴史でした。

度重なる肉体的、精神的な苦痛や病気や不幸、また彼らの知己が経験するさまざまな苦悩や屈辱に同情することで感じた悲しみ。

彼らはこういった試練を糧に、前を向いて歩み続けたのです。

わたしたち読者がロマン・ロランの伝記から得ることのできる豊かな恩恵の一つは、「人生というものは、苦悩の中においてこそ最も偉大で実り多くかつまた最も幸福でもある」ということです。

『ベートーヴェンの生涯』

ロマン・ロランは23歳のときにパリの高等師範学校(エコール・ノルマール)の留学生としてローマに行ったときにベートーヴェンに関心を深めました。

その背景には当時70歳を越えていたドイツの老婦人マルヴィーダ・フォン・マイゼンブークとの出会いがあり、彼女と交誼を結んだことが大きな影響と与えたといいます。

ワーグナーニーチェリストの親友であったマルヴィーダは、若いフランス人ロランのためにピアノを借りてやりました。

昼間にヴァティカンの書庫で史学の文献資料を読みあさって疲れたロランは、ほとんど毎日マルヴィーダの家を訪れ、バッハやヘンデル、ベートーヴェンを弾きました。

当時すでに立派なピアノの演奏技術を身につけていた彼は、実際にベートーヴェンの曲を演奏することによって、その音楽の理解を深めていきました。

ローマに行ってから50年以上にわたり、ベートーヴェンの音楽はロマン・ロランの魂の伴侶であり、彼の研究対象になったのです。

本書『ベートーヴェンの生涯』は、ベートーヴェンについてロマン・ロランが書いた最初の作品です。

本書に対する大きな反響を追い風に、のちに彼はベートーヴェンをモデルにした長編小説『ジャン・クリストフ』を執筆し、1915年にはノーベル文学賞を受賞しています。

本書を読むと明らかになるとおり、ベートーヴェンの人生は幼少期から試練の連続でした。

アルコール依存症のテノール歌手であった父親は、ベートーヴェンの音楽の才能を利用して生活費を稼がせました。

彼は11歳のときに劇場のオーケストラの一員となり、13歳でオルガン引きになりましたが、1789年に母親を亡くし、酒飲みの父を無理に隠退させて2人の弟の教育の責務を負う一家の主にならざるを得ない身となります。

曲を書いて生計を立てるために、ベートーヴェンは愛する故郷ボンを離れ、ウィーンで生活することになりますが、終始悩まされる耳や目の不調や腸の疾患、破滅寸前に陥る残酷な失恋、音楽の名声が高まった矢先に変わってしまったウィーンの人々の音楽への好みなど、彼の降りかかる苦難はとどまるところを知りませんでした。

さらに甥(結核で亡くなった弟カルルの息子)の後見役を引き受けようとための訴訟沙汰に骨を折ったにもかかわらず、当の甥はベートーヴェンに恩義を感じず、賭博に入り浸って借金をするのです。

ベートーヴェンが有名な第九交響曲をつうじて歓喜を称えようと企てたのは、このような悲しみの淵の底からでした。

数々の困難に屈せず、世の中から歓喜することを拒まれたその人間が、みずからの不幸から歓喜を生み出す過程には感動せずにはいられません。

彼の悩みをつき抜けて歓喜に到れ!というメッセージは、本書を通読することで身体にまで響き渡ります。

本書にはベートーヴェンが残した遺書や手紙、紙片のほか、ロマン・ロランのおこなったウィーンにおけるベートーヴェン記念祭での講演も収録されています。

全体で200ページ程度でありながら、内容の非常に濃い作品です!

『ミケランジェロの生涯』

16世紀のルネサンス期に活躍したミケランジェロは、サン・ピエトロ大聖堂のサン・ピエトロのピエタ、フィレンツェのダヴィデといった彫刻のみならず、システィーナ礼拝堂の最後の審判に見られる壁画など、多彩な芸術活動をおこなった芸術家として知られています。

とても華やかな生活をおくっていたのだろうと想像してしまいますが、本書を読むとミケランジェロが天才と意志の弱さのあいだで絶えず葛藤し苦しんでいたことが明らかになります。

本書ミケランジェロの生涯の冒頭で、ロマン・ロランはミケランジェロが勝利者と名づけた大理石像を引き合いに出し、これをミケランジェロそのものであり、彼の全生涯の象徴であると主張します。

『勝利者』はミケランジェロの全作品の中で、彼が死ぬまでフィレンツェのアトリエに残っていたものです。

立派な身体の若者が俘虜を踏みつけている構図ですが、勝利者は口元をゆがめ、腕は肩の方に曲って何か尻込みしているような表情をしており、ロマン・ロランは彼が勝利したが同時に敗北したのであると捉えています。

ロマン・ロランは、ミケランジェロを安易に近づきがたい偉人のイメージにまとめ上げることなく、彼が残した手紙や詩、関連文献を丁寧に読み込み、ミケランジェロという人間がもっていた内的矛盾と葛藤を描き出しています。

ロマン・ロランの作品に対する信念は、次の言葉から推し量ることができます。

人生のみじめさや魂の弱さから眼をそらすような臆病な理想主義を私は嫌う。

大げさな言葉で瞞されやすい幻にすぐこころひかれる一般人に対して言わなければならない。

勇ましい虚言は卑怯であると。

世界に真の勇気はただ一つしかない。

世界をあるがままにみることである。

―そうしてそれを愛することである。

『ミケランジェロの生涯』

ミケランジェロは故郷フィレンツェを愛していましたが、1505年にローマ法王ジュリオ二世にローマに呼ばれてから、生まれ育った地を離れて仕事に没入する人生を送ります。

天才についてイメージが湧かない方は、本書を読むとそれがどのようなものかが腹落ちすると思います。

天才は意志を屈服させ、精神力も心情も支配してしまう恐ろしさを備えているのです。

仕事で消耗し、ほとんど食事をする時間もなく、昼も夜も仕事のことしか考えらないほど病的に働かざるを得なかった結果として、山積みの仕事を抱えるにとどまらず、ワーカホリックという言葉がかすんで見えるほどの狂信的な思考習慣を定着させました。

山を彫刻したいと考えたり、記念物を建てるにあたっては技師にも人足にも石工にもすべてであろうとしたのです。

ミケランジェロは非常な富をつくりましたが、彼には何の役にも立たず、挽き臼に繋がれた馬のように仕事に縛りつけられて貧乏人のような生活をしていました。

特にヴァチカンにあるシスティーナ礼拝堂のフレスコ画を手掛けた際にミケランジェロが置かれた境遇は悲惨なものがあります。

気になる方は本書を手に取ってみてください。

歴史に残る芸術作品となると、その美しさに引き込まれてしまいますが、作品の制作者がどのような思いで完成させたのかを知るとその見方は変わります。

ロマン・ロランは本書『ミケランジェロの生涯』で、ミケランジェロという偉大な人物の足跡をたどることにより、一般的なルネサンス観もゆさぶりました。

豪華絢爛を好む権力階級が、芸術家を奴隷のように使役して己の欲望を満たした側面を明らかにしたのです。

天才ミケランジェロの葛藤に満ちた人生をたどる本書は、読み応え抜群です!

『トルストイの生涯』

ロマン・ロランは若い頃からトルストイ『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』『イヴァン・イリッチの死』などの作品を愛読し、彼を道徳的無政府状態における最も信頼できる指導者と仰いでいました。

芸術を愛していたロマン・ロランは、トルストイが芸術の非道徳性を論難しているのを知りながらも、パリの師範大学の学生であった21歳のときに人生の悩みについて、トルストイに手紙を送りました。

当時のロマン・ロランはいかに生きるかを知らなければならないという義務を激しく感じ、その答えをトルストイに期待したのです。

トルストイはこの手紙を読んでロランの考えに感動して返事を送り、以来2人は何度も手紙のやりとりをしました。

この経験から、ロマン・ロランはトルストイを人生最大の師と仰ぎ、尊敬と愛情を抱き続けました。

その恩に報いるために執筆したのが本書トルストイの生涯です。

トルストイの代表作の多くに言及しながら、登場人物の背後に潜む彼の思想について、日記や手紙などの文献を参照しながらロマン・ロランが考察する本書を読むことで、トルストイが目指した理想の人間像の変遷をたどることができます。

作家としてというよりも、一人の人間としてのレフ・トルストイ像が浮かび上がってくる内容で、トルストイの小説に親しんでいる方はもちろん、トルストイの小説というよりも人物に興味があるとお考えの方にもおすすめの一冊です。

本書には、ロマン・ロランが送った手紙に対するトルストイの書簡や、インドのマハトマ・ガンジーの非暴力不服従の考えに共感したトルストイが死の1ヶ月前に彼に送った書簡も収録されています。

本書を読めば、文豪トルストイの世界が広がることは間違いありません!

おわりに

今回はフランスを代表する小説家、評論家であるロマン・ロランおすすめ伝記をご紹介しました。

ロマン・ロランの魂がこもった文体で綴られる偉人の伝記は、各人の才能と弱さに目を向けることで読む者の気持ちを高ぶらせます。

後世に読み継がれている著者の伝記をぜひ読んでみてください!

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