【これは読んでほしい!】喜劇詩人アリストファネスのおすすめ名著6選

読書まとめ

こんにちは、アマチュア読者です!

今回は喜劇詩人アリストファネス(Aristophanes)おすすめ名著をご紹介します。

アリストファネスはアテネの生んだ最大の喜劇詩人といわれており、古代ギリシアを代表する人物です。

彼は紀元前450年~445年の頃、ピリッポスとゼーノドーラとの間に生まれ、紀元前380年の頃に世を去りました。

彼は20歳前後から喜劇を書きはじめたと考えられ、紀元前427年に最初の喜劇を上演しました。

アリストファネスの喜劇と称されるものの名前は全部で44伝わっていますが、残念ながらその大部分は失われてしまっており、現存する作品は限られています。

その中から実際に読んでおもしろかった作品を執筆された順に、以下でご紹介します。

古代ギリシャの文学作品に興味がある方や、悲劇よりも喜劇が好きな方にはご参考になると思います。

アリストファネスが創作した喜劇は人間の不満や悲しみを笑いで吹き飛ばし、明るい気持ちにさせてくれます。

『雲』

借金に苦しむ主人公の田舎紳士とその息子が、苦境を切り抜けるために弁論術を身につけようとします。

門を叩いたのは超有名なソフィストであるソクラテス(という設定)でしたが、彼の手ほどきを受けた息子の豹変ぶりに田舎紳士が散々な目に遭ってしまいます。

親を殴ってもいい理由を悪びれることなく説き、自分の方が悪いのに正しいことに反対の意見を吐く達人となった息子の様子を読むと、劣った論を勝たせる詭弁の恐ろしさに戦慄させられます。

本書は哲学の祖と称されるソクラテスが、まるであらゆる悪徳の権化であるソフィストの代表として舞台に登場するところに大きな特徴があります。

このソクラテスは、これまでゼウスの神の仕業だと思われていた雨や稲妻、雷鳴といった現象を雲の作用として説明しています。

アリストファネスは「雲」を新しい時代の神とみなし、働かずに自分の知恵だけで暮らす人たち、つまりソフィストの守護神と捉えたのです。

アリストファネスとソクラテスが実際に敵対していたのかどうかは賛否両論ありますが、アリストファネスが本書でソクラテスの人格自体を直接攻撃していないところを見ると、ソクラテスの風貌や奇行などが喜劇向きであったことが彼をソフィストの代表として登場させた理由だと推察されます。

いずれにせよ、喜劇であることを忘れなければ楽しめること間違いなしの傑作です!

『蜂』

本書はペロポネソス戦争の渦中にある紀元前422年のレーナイア祭で上演されました。

この年はアリストファネスが敵視していたクレオンが戦死した年であり、ニキアスの平和の前年にあたります。

当時の喜劇の発表は国家の主催する競技の形式でなされましたが、アリストファネスは『蜂』で一等賞を授与されたようです。

彼が『蜂』を世に出した目的の一つは、当時のデマゴーグと陪審制による法廷のあいだの密接な関係を暴くことにありました。

アテネにおける一般市民による裁判の方法は、一見すると合理的で公平なようにみえますが、実態はこれに反していました。

陪審員の多くは病弱者、老人、浮浪者であり、法律の運用に関しては素人であることは勿論、多くの民衆と同じく自分の意見を持たず、吹けば飛ぶように扇動されやすかったのです。

陪審員たちはデマゴーグの指示のもと、精力的に活動していたにもかかわらず、生活できるギリギリの食い扶持のみを与えられるだけで、政治の道具として酷使されていました。

アリストファネスがこの状況を心から嘆いていたことは本書の行間から滲み出ています。

『蜂』における主要人物である裁判好きの老人をピロクレオン(クレオンびいき)、その息子で父の言動を心配し、外出しないように部屋に閉じ込めたり言いくるめたりしようと奔走する男をブデルュクレオン(クレオン嫌い)と呼んでいることにも彼の含意が読み取れます。

また合唱隊も、という言葉が表しているように、スズメバチの扮装をした怒りっぽい老人の陪審員という構図になっており、アリストファネスの戯曲構成の面白さを感じさせます。

『平和』

本書平和が上演されたのは、ペロポネソス戦争における僅かな休戦期間の契機となったニキアスの平和条約締結のわずか前、紀元前421年初春の大ディオニューシア祭においてでした。

長い戦争状態に業を煮やした百姓トリュガイオスが大きな黄金虫にのって天に昇り、ゼウスに直談判するという、おとぎ話的な内容の本書はアリストファネスの他の作品に比べて諷刺の鋭さはないものの、近づきつつある平和を言祝ぐトーンで話が進んでいきます。

休戦をしようとするたびに争いを再燃させるギリシア人に憤慨した神々が住まいを移してしまったため、もとの場所で神々の残した道具の番をしていたヘルメスとトリュガイオスとの序盤の掛け合いはおもしろく、本書の世界にぐいぐいと引き込まれてしまいます。

『鳥』

絶版のようです(2023年4月28日現在)

紀元前414年の大ディオニュシア祭に臨んで上演されたもので、登場人物たちの巧妙な対話、鋭い諷刺はもちろんのこと、タイトルにあるとおり、舞台合唱団が24羽の鳥からなるところにも面白さがあります。

統率力のある指導者を欠き、訴訟に明け暮れる日常に嫌気がさした主人公のアテネ市民2人が鳥の国を訪れ、鳥の王を説得して空中に理想の国を建設するというのが本書のあらすじです。

新しい国の話を聞きつけて、地上からさまざまな人々がやってきますが、ことごとく拒絶されてしまいます。

ここには笑いだけでは済まないアリストファネスの世間に対する憤り、正義感、憂国の心情が反映されており、本書の奥深さにつながっています。

当時のアテネはペロポネソス戦争の最中にありましたが、紀元前421年のニキアスの平和条約締結により不完全ながらも数年のあいだ、束の間の休息に入っているところでした。

しかしながら、傑出した指導者ペリクレスは疫病によってすでに没し、代わって甘い言葉で民衆を誘惑して私利私欲を満たそうとするデマゴーグ(民衆扇動家)たちがアテネの街に跋扈していました。

その代表が、ペリクレスの近親であり、ソクラテスからも可愛がられたアルキビアデスという、とんでもない人物です。

彼は富と家柄と饒舌と容姿にめぐまれ、主戦派としての帝国主義的言論によって大衆の喝采を浴びました。

彼は紀元前415年にシケリア遠征軍の将軍に選ばれますが、ヘルメス像を破壊する瀆神行為のかどでアテネ本国から召還命令を受けます。

ところが、こともあろうに敵国スパルタに亡命してアテネを倒すことに貢献し、さらにはアテネに帰還したという現実に起こったとは信じられない行動をとったのです。

これらの出来事の影響も、本書のさまざまな箇所で垣間見ることができます。

『女の平和』

本書では、古代ギリシャでアテネとスパルタの長引く戦争を終わらせようと、若くて美しい婦人のリューシストラテーが中心となり、全ギリシャの女性が団結します。

従軍する男たちのだらしなさと無為無策に絶望し、アテネの精神的・宗教的中心であるアクロポリスに立てこもって女の手で平和を呼び寄せようと画策します。

これが喜劇となるのは、戦争を終結させる方法が突拍子もないからなのですが、それがどういうものなのかはぜひ本書を読んでいただきたいです。

歴史的背景に目を向けると、この喜劇の裏には悲しさが隠れていることがわかります。

女の平和は紀元前411年に上演されましたが、この頃はアリストファネスの他の作品と同様に、ペロポネソス戦争(前431-404年)が世を覆っており、スパルタとアテネが覇権を争って死闘を繰り広げていました。

一時はニキアスの平和(前421年)によって戦前の秩序が保たれたかに見えましたが、これは10年の長きにわたる戦争に疲れた両国の小休止にすぎず、前418年のマンティネイアの合戦によって、再び口火が切られてしまいます。

ペロポネソス戦争の間に作品の大半を書き上げたアリストファネスにとっても、女の平和を執筆していたこの期間は特に暗澹たる気持ちだったのかもしれません。

アリストファネスは喜劇に平和への希望を込めていたことは他の作品からもわかりますが、この時期に彼の作品が上演されることで救われた観衆は数多くいたに違いありません。

女の平和は力の強い男性が戦争に赴き、女性は家に残って家庭を守る社会が舞台となっています。

つまり、男性が会社で長時間働き、女性が家事や育児を担っていたつい最近までの日本と同じ状況です。

本書の内容を現代に当てはめるならば、強い女性たちがリーダーシップを発揮して女性同士のつながりを拡げ、男性優位の社会に異議申し立てをすることになるでしょう。

それも暴力に訴えることなく、言葉を武器にして。

『女の平和』についてはこちらの記事でも詳しく紹介しています。

ぜひご参考にしてみてください。

『蛙』

こちらも絶版(2023年4月28日現在)

アリストファネスは本書を紀元前405年のレーナイア祭に上演して一等賞に輝きました。

酒の神であるディオニュソスが召使のクサンティアスとともに真の詩人を探し求めて地獄を訪れ、ギリシアを代表する悲劇詩人のアイスキュロスエウリピデスを悲劇の王座を争わせて比較します。

神の正義に信をおき、神話伝説中におこなわれる神々の一見して不合理、不正に見える行動に対して、神々の真の意味を言葉少なく捉えようとするアイスキュロス

思想の対象を自然から人間に移し、人間の倫理観や価値判断に重きをおいた平易な言葉によって神話的英雄を人間の水準に引き下げ多弁に語ったエウリピデス

アリストファネスはどちらを真の詩人とみなしたのか、気になる方はぜひ本書を手に取ってみてください。

本書『蛙』は人類が有する最古の、しかも最も見事な文芸批評ともいわれています。

この批評を戯曲の形で生み出したアリストファネスの力量には感嘆せざるを得ません。

同時に、この作品をつうじて愉悦を味わった当時のアテネの人々の教養の高さにも驚くばかりです。

おわりに

今回は喜劇詩人アリストファネスおすすめ本をご紹介しました。

紀元前5世紀のペロポネソス戦争の時代に活躍し、世界に名を残すアリストファネスの喜劇の数々が、現代でも日本語で読んで楽しめる文化があるのは素晴らしいと感じます。

アリストファネスの喜劇は読んでおもしろいのは勿論のこと、当時のアテネの社会諷刺、戦争に対する嘆きや憤り、平和への希望が込められています。

読んで良かった!と思える作品ばかりなので、ぜひ読んでみてください!

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