【これは読んでほしい!】禅を世界に広めた立役者 鈴木大拙のおすすめ名著

読書まとめ

こんにちは、アマチュア読者です!

今回は、禅をはじめて海外に紹介した功労者である鈴木大拙のおすすめ名著をご紹介します。

禅の道を歩みながらも、大乗仏教や老荘思想といった東洋の精神的伝統もふまえて書かれた著者の作品は、言葉に重きをおかないがもつ素晴らしさを読者に感じさせてくれます。

禅は仏教の諸派の中で、秘密文書や神秘的な儀式をまったく用いない無比の地位を占めており、長い修行のあとに洞察を得た者のみに、その究極の意義が表れるものとされています。

禅は個人的な経験を一切とするため、体験していない人にとっては不可思議で曖昧なものと受け取られてしまいがちです。

今回ご紹介する作品には、その禅の本質が著者の情理を尽くした言葉で説かれています。

『禅学入門』

本書は禅仏教の入門書であり、初学者にもわかりやすく明快に書かれています。

読みやすい文体なので、一気読みできてしまうほどの心地良さを感じられますが、内容は重厚です。

著者が64歳のときに書かれた作品のため、禅に関する知識はもちろん、読者が理解しやすいように多くの例を引き合いに出し、著者自身の教養と経験に裏打ちされた言葉で禅思想が丁寧に解説されています。

もし何か禅が強調するものがあるとするならば、それは何にも拘らないことである。すべての不自然の妨害からの離脱であると著者は述べ、常識や教義や伝統などによって分別したり、判断したり評価したりしない心の働きが大切であると説きます。

「禅とは何か」「禅は虚無主義か」「非論理的なる禅」「禅堂と僧侶の生活」など興味が湧くテーマが多く扱われており、禅の世界を垣間見る格好の書です。

『日本的霊性』

霊性という言葉には、精神や心の中に包みきれないものを含ませたいという著者の願いが込められています。

精神または心を物(物質)に対峙させるとき、精神を物質に含めること、あるいは物質を精神に入れることはできません。

二つのものが対立しているかぎり、矛盾や論争、闘争、相殺といったことからは免れず、人間が平和に生きていくためには、二つのものを包み込み、二つでなくて一つであり、また一つであってそのまま二つであることを見る「霊性」が必要だと著者は語ります。

精神は霊性に裏付けられることによって初めて自我を超越したものになり、「和を以て貴しとなす」に徹することができるという著者の主張は、本書が書かれた昭和19年の戦時下で軍閥の圧力によって押しつけられた思想に対する強い批判が込められています。

花鳥風月を慈しむ純朴な自然生活をおくった古代の日本人にも、『源氏物語』『枕草子』のような貴族生活の恋愛葛藤、政治的陰謀、修辞的技巧に満ちている優美な平安朝の人々にも日本的霊性の自覚は起こりませんでした。

農民を直に支配していた武士が指導者となる鎌倉時代に入って、この日本的霊性が花開き、法然や親鸞、道元、栄西、日蓮たちが打ち立てた鎌倉仏教の隆盛につながったという論考は、そのプロセスはもちろんのこと、文体の素晴らしさに時間を忘れて没入してしまうほどの面白さです。

日本人の精神や伝統に思いを馳せるとき、本書は「霊性」という観点を提示し、思索を深めるよすがとなります。

『禅』

著者が過去四五十年間に執筆した英文の著作から、おもに禅の本質についてふれているものを厳選して邦訳した作品です。

もとは英文で書かれていたことからわかる通り、禅を海外に紹介することを目的とした内容で、同じ歴史や文化をバックグラウンドにもたない欧米人に理解してもらうために平易な表現で書かれています。

本書ではインドから中国に伝わった禅思想が中国で独自の展開を見せ、抽象的な形而上学的思索から離れて日常生活に即した実際的で具体的なものとして完成した経緯や、インド人と中国人の思想の違いについて多くのページが割かれており、非常に興味深い内容です。

先にご紹介した『禅学入門』と比べると難しい内容ですが、著者が本書の冒頭で述べているとおり、この書を一読すれば、大体、近代的に禅の何たるかを知得することができると思います。

読む順番としては、『禅学入門』を読んだ後に本書を手に取ることをおすすめします。

『東洋的な見方』

本書には、著者が最晩年に書き綴った数々のエッセイが収められています。

90歳前後に書かれたエッセイも収録されており、哲学や科学の根底にある事物を分けて考える西洋的な見方に対して、一の数さえも始まらない以前を見ようとする東洋的な見方を世界に広めたい強い思いが伝わってきます。

東洋の思想を語りながらも西洋の価値観から学ぶ姿勢が本書から窺われ、ものごとを単純に二分して優劣をつけることなく考える著者は、まさに禅を体現しているように見受けられます。

「自由・空・只今」というタイトルのエッセイでは、「自由」という言葉とその本来の意義について弁じられています。

自由という文字は、もとを辿れば東洋思想に特有のものであり、西洋的な考えにはない概念だといいます。

明治に入って西洋思想を輸入する際にフリーダム(freedom)やリバティー(liberty)に対する訳語として、仏教の語である自由をあてはめ、現在では自由とフリーダムやリバティーが同じ意味を持っていると一般的にみなされています。

しかし、西洋のリバティーやフリーダムには消極性を持った束縛または牽制から解放される意味あいが強く、東洋的な自由の意義とは大いに相違するものだと著者は主張します。

自由」というのは天地自然の原理そのものが、他からの命令や指図もなく、制裁もなく、おのずから出るままの働きを表す言葉であり、ものがその本来の性分から湧き出るものだという著者の思想には目を開かされる思いがします。

最晩年の著者が辿り着いた東洋思想の境地から生み出される言葉は、読者の心を揺さぶらずにはおきません。

おわりに

今回は、禅を世界に広めた立役者である鈴木大拙のおすすめ名著をご紹介しました。

「禅」というと、欧米で一世を風靡したような座禅や瞑想といった方法論に目を向けてしまいがちですが、インドを源流として中国に伝えられた禅思想が独自の発展を遂げ、唐や宋の時代に完成の域に達した禅を深く学ぶことは自分が見る世界を変える契機になります。

グローバル化していく社会において、画一的になりつつある資本主義や個人主義が内包する強烈な自我を内省すると、いつもの景色が違って見えてきます。

この機会に、禅を知悉した著者の優れた作品をぜひ手に取ってみてください!

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