こんにちは、アマチュア読者です。
今回ご紹介するのは、酒井順子『地震と独身』です。
本書は独身者に焦点を当てたエッセイです。
2011年に起きた東日本大震災で、独身者は何を考えてどう行動したのでしょうか。
著者が一人ひとりに行なったインタビューを主軸に、それぞれ異なる環境下で独身者が考え、選んだ道のりをたどります。
本書に登場する人たちのインタビューを読むと、男性と女性とを問わず、地震が起きたときに率先して仕事をこなしていた多くは独身者だったことがわかります。
子育て中の家族を持つビジネスパーソンは早めに退社し、残った独身者には普段以上の業務負荷がかかっていた様子が伝わってきます。
当然サンプル数は限られているものの、緊急時には独身者にしわ寄せが来る傾向はあるのでしょう。
そういう状況で健気に働く独身者ですが、妻子がいないことで安否を心配する必要がないのは精神的に楽だというメリットもあります。
被災地にボランティアとして向かう人の多くは独身者だったことも本書を読んで知りました。
フットワーク軽く現地に赴き、重労働をしながらも被災者の方とコミュニケーションを積極的にとることで、本当に必要なものを聞き出すことができる秘訣だといいます。
ボランティアの経験が浅い人は自己満足につながることに手を出してしまいがちで、被災者の方が喜んでくれるものが何かを把握できていないこともあるそうです。
震災をきっかけに、東北にUターンして新しく仕事を始めたり、放射性物質の影響から逃れるために北海道や沖縄に移住したり、はたまた憂き目に遭っている人に寄り添うことに生きがいを感じて住職の道に進んだりと、東日本大震災は独身者の人生の転換点になったことがわかります。
被災した直後は衣食住に不自由な日々を送っていた人たちは、一息つく余裕がなかったことが本書から伝わってきました。
家族の安否や自宅の損壊状況、余震への警戒、行き場のない怒りや悲しみなど、すぐには解決できない精神的疲労は相当なものだったはずです。
いったいあの震災が人生にどのような影響を与え、数年後にどういった結果をもたらしたのかを、独身者に対するインタビューを通じてまとめ上げたのが本書です。
被災しても前を向いてポジティブに生活している人に目が行きがちですが、すべてが美談に終わるはことなく、問題を抱えながら生活している独身者の姿も印象的です。
震災から10年以上が経過しましたが、忘れられないもの、忘れてもよいもの、忘れてしまうもの、忘れてはならないものがあるはずです。
本書を読むと、それぞれについて考えさせられます。
有名エッセイストとしての著者の腕が光る読みやすい文体で、会話形式の文章も多いのでテンポよく読める作品です。
本書の最後に記載されていますが、売上で発生する収益はすべて被災地に寄付されるそうです。
独身者に焦点を当てたユニークな一冊ですが、震災の記憶を風化させないためにもおすすめです。
ぜひ読んでみてください。
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