こんにちは、アマチュア読者です!
今回は、近藤義郎『前方後円墳の時代』をご紹介します。
本書では、朝鮮半島や中国大陸からの人々の影響を受けて農耕が成立した弥生時代から、前方後円墳が造られた古墳時代において、日本列島で階級社会が形成されていく過程が描かれています。
同業の研究者は本書のゲラ刷りを読んだ際に、「なんという本や。古墳時代の研究で、もうすることはない」という強烈な衝撃を受けたといいます。
ひたすら考古資料に徹し、論理の道筋をはずれることなく、弥生時代の農耕採用から前方後円墳が終焉する7世紀までを大系的に描き切った本書は、「戦後日本考古学の到達点である」と解説に書かれるほどの凄みがあります。
縄文時代は狩猟採集の日々で、主に力の強い男性が遠出をして動物を狩り、女性や子どもは住居をととのえ、植物を集めて生活を営んでいました。
食糧を備蓄しておくことは容易ではなく、計画的に食料を調達することは難しい時代でした。
弥生時代に入ると、木材と石や鉄を組み合わせた農耕具の発達や乾燥地域における灌漑技術の導入によって、集団で農作物を効率的に収穫できるようになり、人口も増加しました。
もちろんこの変化は一足飛びに進んだわけではなく、土地を起こして区画し、種をまき、水路を確保して自然災害にも対処する中で徐々に進歩を遂げていきました。
水田は集団的な労働力を持続的に投入することで初めて獲得・維持されますが、それは人間が自然にたえず介入することで維持されるという点で、特異な領域となりました。
集団的な労働によって水田がその数を増やしていくと、今度は土地の占有や収穫量をめぐって集団のあいだで対立が生じるようになります。
水田耕作を営む個別集団は、共同体的所有の自然な形態である家族や親戚などの血縁的関係からしだいに離れ、新しい関係を社会につくりだしていく基礎となっていきます。
集団は氏族や部族と大きくなり、諸集団のあいだの調整は代表者である首長が担うことになり、はじめは集団の一員という意味合いが強かったはずが、社会的ステータスや権力をまとうようになると社会のあり方も変わっていくことになります。
その象徴が前方後円墳に代表される墓であり、形状や大きさ、数によって地域間の違いがわかり、どの地域が富を蓄積し、社会的な主導権を握っていたのかを理解する拠り所となります。
古墳や埋葬品、農耕具といった考古資料は、それ自身がものを言わぬ沈黙資料であり、考古学者が解釈をして発言させることになります。
しかし、人の名前や年月、個人の行動や事件の経過を追うことはできず、抽象的な表現にとどまり、登場するのは具体性のない集団になるのが通例です。
土器片や石器片を一資料としてカウントすれば、毎年百万点をこえる資料が出土しているものの、すべての資料についての総括をおこなうことは一筋縄でいかず、相当な力量が求められます。
本書『前方後円墳の時代』は、弥生時代から古墳時代における考古学的史料から、当時の社会のあり方が論じられています。
内容のほとんどが考古資料にもとづいて書かれており、「みずからを歴史学と任じて久しい考古学が、その独自の資料のみを使って果たして歴史を復原・再構成しうるものかどうか」を著者自身が検証した作品です。
本書で使用されている考古資料は、著者自身が発掘したものや、実際に現地に足を運んで自分の目で見たものが中核に据えられています。
数多くの史料が体験をとおして血肉化された著者の論考は、1983年に刊行されて以来、不朽の名著として現在に至るまで揺るがぬ評価を得ています。
本書では以下の章立てで構成されています。
はしがき
第一章 弥生農耕の成立と性格
第二章 鉄器と農業生産の発達
第三章 手工業生産の展開
第四章 単位集団と集合体
第五章 集団関係の進展
第六章 集団墓地から弥生墳丘墓へ
第七章 前方後円墳の成立
第八章 前方後円墳の変化
第九章 部族の構成
第十章 生産の発達と性格
第十一章 大和連合勢力の卓越
第十二章 横穴式石室の普及と群小墳の築造
第十三章 前方後円墳の廃絶と制度的身分秩序の形成
弥生時代から古墳時代にかけて形成されていった階級社会のプロセスが丁寧に考察されており、高度な専門知識を持たなくともじっくり読めば理解できる読者にやさしい文体で書かれています。
この機会にぜひ読んでみてください!
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