こんにちは、アマチュア読者です!
今回ご紹介するのは、ウンベルト・エーコ『バウドリーノ』です。
著者のウンベルト・エーコ(Umberto Eco)は、1932年にイタリア北部の都市アレッサンドリアに生まれました。
アレッサンドリアは本書の主要な舞台の一つでもあり、北イタリア諸都市がロンバルディア同盟を結んで神聖ローマ皇帝フリードリヒ・バルバロッサに対抗した12世紀後半に建設された町です。
いくつかの川が交じりあっているために、霧が立ち込める土地だといいます。
中世文化に対する関心の深かったウンベルト・エーコは、卒業論文に『聖トマスの美的問題』を書いてトリノ大学を卒業します。
本書も中世、十字軍の時代をあつかった物語です。
主人公バウドリーノ
本書の主人公バウドリーノもまた、著者の生まれたアレッサンドリアのように、深い霧の出るこの地に貧しい農民の子として生まれます。
幼い頃から習ったこともない言語を聞いただけで、たちまちその言語を習得してしまう天賦の才能を持っていました。
その才能に惚れ込んだ神聖ローマ皇帝フリードリヒ・バルバロッサに気に入られて、農民の出でありながら彼の養子となります。
たぐいまれな語学の才に恵まれ、機転がきき、生来のほら吹きでもあるバウドリーノに、バルバロッサは他のどの延臣よりも目をかけます。
バウドリーノも養父の愛情にこたえて忠誠を尽くしますが、よりによって皇紀のベアトリスに思いを寄せるようになってしまったり、遊学先で野蛮な行為をしたりと期待に沿えないことを多くしでかします。
それでもバウドリーノの語学力と嘘を本当であるかのように説明する言語能力は天才的で、神聖ローマ皇帝をも唸らせます。
欠点があってもどこか憎めないところがある個性的なキャラクターです。
『バウドリーノ』のおもしろさ
本書がおもしろいのは、バウドリーノが嘘をついたことが本当に現実になっていくところにあります。
嘘をつくのが上手い人間は星の数ほどいますが、そういった話がすべて現実になっていく世界というのは経験したことがないですよね。
しかも、バウドリーノ本人はそのことを不思議だと思っていないように見えるのです。
嘘であっても自分の言葉に責任を持っているからか、この数奇な運命に身を任せているからなのかはわかりませんが、立ち止まって考えさせられます。
本書はストーリーの展開もさることながら、登場人物のセリフを通じてウンベルト・エーコの深い洞察が光るところにも魅力があります。
たとえば次のバウドリーノの言葉には含蓄があります。
わが人生の問題は、実際に見たことと、見たいと思っていたことをつねに混同することです
真実であるかぎりは、それを採用しよう… (中略) …重要なことは、おとぎ話にしないことだ
おわりに
今回はウンベルト・エーコ『バウドリーノ』をご紹介しました。
物語として楽しめるのはもちろん、著者の人間に対する深い洞察にもふれることができます。
読んでみるとわかりますが、歴史、伝説、冒険、ロマンス、ファンタジーが一体となった本書は読みごたえ抜群です!
ぜひ読んでみてください。
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