こんにちは、アマチュア読者です!
今回ご紹介するのは、リットン・ストレイチー『ナイティンゲール伝 他一篇』です。
ナイティンゲールといえば、皆さんはどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか?
わたくしアマチュア読者の場合は、小学校の頃、図書館の伝記コーナーに行ったときに美しいナイティンゲールのイラストを見て、「ナイティンゲールは天使のような存在だったんだ!」と思った記憶があります(結局その伝記は読まずじまいでしたが)。
本書は、日本人にとっては「白衣の天使」というナイティンゲールの実像を、イギリスの伝記作家が事実をもとに映し出します。
ナイティンゲールはすごい人
ナイティンゲールは、すぐれた看護師であるだけではなく、実は敏腕マネージャーでもあり、仕事大好き人間でした。
彼女は看護師という仕事を天職だと思い、裕福な貴族の家系でありながら、若い頃から看護師になるための勉強をしていました。
これはどこまで本当のことなのか分かりませんが、本書によると、当時のイギリスでは「看護婦」といえば、決まって無知な、大抵汚らしい、しばしば乱暴な、下品な老女であったといいます。
ブランデーを瓶から直接ちびちび飲む、いやもっとひどい振る舞いばかりしている、スカートをたくしあげて汚い服を着た女性のイメージがありました。
当時からすると、現在はかなり事情が変わっています。
しかもその変化は、ナイティンゲールその人の力によって実現したというのですから、彼女の影響力の大きさがうかがえますよね。
上流階級で優雅な生活を望む両親の反対を押しきって、ナイティンゲールは本当に自分のやりたい事に向き合い、自分の道を切り開いていったのです。
当時は男尊女卑の傾向が今よりも強い社会で、女性が医療現場で活躍するのは今よりもはるかに難しかったと思います。
当時の厳しい環境の中でも、ナイティンゲールは医療現場で働くための準備を着々と進め、実地で役立つ知識を蓄えました。
クリミア戦争での活躍
そんな中、イギリスが参戦したクリミア戦争が勃発します。
18世紀の戦場では、傷痍軍人のための医療設備は惨憺たるものでした。
だだっ広い空間があるだけで、医療に必要な清潔なタオル、包帯、副木、担架、一般的な薬品さえも足りていませんでした。
ナイティンゲールは、クリミア後に赴く前に関係者から「救援物資は十分にあるから心配しなくていい」と言われていました。
実際は十分というには程遠い状況であったにもかかわらずです。
しかし、ナイティンゲールは、自分の直感の方を信じることを好みました。
クリミアに向かう前に、マルセイユで大量に様々な備品を買い込んだのです。
それが現地で最高に役に立ったのです。
彼女が裕福な貴族出身であることも大きく影響していたでしょう。
彼女はクリミア戦争の現場で、看護師としてきわめてタフに働き、患者のケアをするだけではなく、不足した物資を手配し、医療設備の改善にも努めました。
現地で人を雇い、換気設備を戦地の病院に初めて導入したのはナイティンゲールだったといいます。
戦地での実務経験が十分でないにもかかわらず、マネジメント能力と行動力が卓越していますよね。
わたしだったら現地の惨状を目の当たりにして腰が抜けてしまうと思います。
まさに八面六臂の活躍で、彼女の懸命な看護によって負傷した軍人たちは言葉遣いが丁寧になり、野蛮な行いを控えるようになったそうです。
軍人は戦地で一人の人間として扱ってもらえる風潮ではなく、過酷な現場で日々戦っていました。
怪我をした場合、心身のケアを受けることが軽視されていた当時の状況で、ナイティンゲールをはじめとする看護師の温かいふるまい。
それは彼らにとって、一人の人間として扱われていると感じられる時間であり、病院は心の憩いの場になったのではないでしょうか。
自分にも他人にも厳しい
ナイティンゲールは、クリミア戦争での懸命な看護にともなう激務を経験したせいで、イギリスに帰国後、病気に苦しみます。
寝たきりになっていたというほどの重病の中、彼女は医療に貢献するために仕事を続けます。
イギリスの医療を改善するために、親友の政治家を通じて様々な法案を提案します。
その仕事ぶりは凄まじいもので、自分にも他人にも厳しく接しました。
自分が休みなく働いている一方で、休暇をとっている同僚を見ると、「仕事をサボっている!」とみなしました。
ナイティンゲールは、現代から見れば、医療現場を変えた類稀な才能を持つ女性でしたが、もし私が当時彼女と共に仕事をしていたら、間違いなく精神に支障をきたしていたと思います…
彼女がどれだけハードに仕事をしていたのかは、本書を読むとよくわかります。
おわりに
今回は、リットン・ストレイチー『ナイティンゲール伝 他一篇』をご紹介しました。
医療現場の天使というナイティンゲールのイメージが音を立てて崩れていきますが、彼女がどれだけ真剣に対して医療に向き合っていたのかが伝わってくる作品でもあります。
わずか100ページほどですが、読み応えがあります。
読んで良かったと思える作品なので、ぜひ読んでみてください。
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