こんにちは、アマチュア読者です!
今回ご紹介するのは、ボーマルシェ『セビリアの理髪師』です。
本書は劇作家のボーマルシェが手掛けた喜劇で、「フィガロ三部作」の第一作にあたります。
フィガロは本作品の登場人物で、陽気で快活、上手くいかないことがあっても落ち込まずに笑い飛ばす愉快な性格の持ち主です。
文筆業で生計を立てようとするも上手くいかず、床屋に転身しています。
『セビリアの理髪師』は一人の女性(ロジーヌ)をめぐって、一目惚れした伯爵(アルマビーバ伯爵)と後見人の医者(バルトロ)のあいだで目まぐるしく展開される色恋沙汰がメインテーマになっています。
次の日に女性と医者が結婚する予定だという切迫した状況の中、伯爵側のフィガロが知恵を絞り、医者になかば監禁されている女性と伯爵を引き合わせるために走り回ります。
フィガロは伯爵側と面識があるだけでなく、床屋の顧客である医者ともつながりがあるところに本書をおもしろくしているポイントがあります。
フィガロの繰り出す妙案に対して、頭の切れる医者が鋭くそれを見抜き、上手くいかないとわかると臨機応変に対応していくフィガロの立ち回りも見所です。
全体を通して、状況が次々とテンポよく変わっていくので飽きずに楽しむことができます。
『セビリアの理髪師』は音楽界にも大きな影響を与え、19世紀にはロッシーニ歌劇の原作にもなっています。
この歌劇の序曲は、心がワクワクするような軽快なリズムで思わず引き込まれてしまい、何度も聴いています。
本書を読んでから聴いてみると、動きの多い喜劇を見事に表現した音楽だと感じ入り、ロッシーニの卓越した才能に感動しました。
作家ボーマルシェの生涯がおもしろすぎた
本書『セビリアの理髪師』の作者であるボーマルシェ(Beaumarchais)は18世紀にその波瀾万丈の人生を送ったことで知られています。
みずから「闘いこそわが人生」と語ったように、彼は単なる劇作家と称するには勿体ないほどマルチな才能を発揮しました。
彼の本名はピエール=オーギュスタン・カロン(Pierr-Augustin Caron)といい、1732年に時計職人の親方を父に、パリのサン=ドニ街で生まれました。
時計職人を皮切りに、音楽家(ハープの腕前を生かしてルイ15世の姫たち4人の音楽教師になった)、司法官、実業家、貿易商、王の密使(フランス国王のルイ15世やルイ16世に宛てられた怪文書を闇に葬る仕事)、劇作家協会設立者、出版業者と幅広く活躍しただけにとどまらず、その容姿端麗な身なりから女性関係には事欠かず、多彩な女性遍歴を辿ったことでも知られています。
時計職人としてキャリアをスタートさせた青年の頃には、常軌を逸した夜遊びを繰り返したあげく、工房から商品の時計を持ち出して遊興費に使ったことで父親に激昂され、家を追い出されてしまったというエピソードもあります。
ボーマルシェはアメリカ独立という歴史の転換期にも深く関わっています。
1776年のアメリカ独立宣言の前後に新大陸の独立運動の情報を入手したボーマルシェは、ロンドンからルイ16世や外務大臣ヴェルジェンヌにたびたび書簡を送り、「植民地アメリカの戦いは反乱軍の勝利に終わるに違いないからフランスは反乱軍を援助せよ」と説きました。
その結果、宮廷から商社を設立してアメリカの反乱軍に武器弾薬などの必需品を提供するようにとの許可が出るのです。
その際、フランス政府からだけでなく、ブルボン家とも親しかったスペイン王室からも多額の資金が提供されました。
任務を受けたボーマルシェは、パリのマレー地区に商社を設立し、船集め、武器弾薬購入、義勇軍集めに東奔西走して大活躍しました。
1777年はじめには大量の援助物資をアメリカに送り、新大陸ポーツマス港のアメリカ人は熱狂してこれを迎え入れました。
ただ、すべては善意からの贈り物だと受け取ったアメリカ側の誤解(?)により、新大陸の物産やヴァージニアのタバコといった見返りを期待していたボーマルシェは何も得られませんでした。
身を粉にして働いた結果に愕然としたボーマルシェでしたが、外務大臣ヴェルジェンヌからの融資で窮状をしのぎ、採算度外視で新大陸への援助を続けたのです。
1778年になってようやくアメリカからの代金支払いの約束にこぎつけましたが、残念ながら生前には決着がつかず、1835年になってようやく希望額の4分の1以下が遺族に支払われたといいます。
本書『セビリアの理髪師』は、このアメリカ独立運動に関してボーマルシェが各地を駆け回る直前の1775年にコメディ=フランセーズ(フランスを代表する王立劇場)で初演されました。
ここに書いたことはボーマルシェが残した業績の一部にすぎません。
くわしく知りたいという方は、ぜひ本書の解説を読んでみてください。
訳者の鈴木康司氏が書かれたボーマルシェについての解説は40ページに満たないながら、その驚くべき生涯を垣間見ることができます。
ここまでコンパクトにまとまっていて秀逸な解説には、なかなかお目にかかれませんよ!
この解説を読むことで、本書をより味わい深く楽しめることは間違いありません。
おわりに
今回はボーマルシェ『セビリアの理髪師』をご紹介しました。
歌劇の名作として世界中に知られている本書ですが、その内容はもちろん、作家であるボーマルシェの生涯に目が釘付けになります。
200ページもない作品ですが、丁寧に読み通すことで、その世に出てから200年以上経っても色あせることのないその素晴らしさを実感することができます。
ぜひ読んでみてください!
訳者の鈴木康司氏が執筆したボーマルシェの伝記『闘うフィガロ』もおもしろいです!
「ボーマルシェの生涯について知りたい!」という方にはおすすめです。
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