【わかりたい】上杉忍『アメリカ黒人の歴史』

歴史

こんにちは、アマチュア読者です!

今回ご紹介するのは、上杉忍『アメリカ黒人の歴史』です。

アフリカ系アメリカ人(African-American)という言葉が日本にも徐々に浸透してきたとはいえ、見た目でわかる皮膚の色で白人、黒人、黄色人種といったカテゴリーに瞬間的に分類してしまう偏見はいまだに消えません。

本書の冒頭で、アメリカの人口調査結果について言及があります。

アメリカでは、1980年の人口調査から住民を白人、黒人あるいはアフリカ系アメリカ人、アジア系、先住民、太平洋諸島人の5つの人種グループ別、およびヒスパニック系(スペイン語を話すラテン系住民)とその他の集団に区分し、統計を取っています。

2010年の統計では、アメリカの全人口3億875万人を上記のカテゴリーで分けると以下の結果が得られています。

  • 非ヒスパニック系白人:1億9682万人(63.7%)
  • 人種を問わずヒスパニック系:5048万人(16.3%)
  • 黒人(アフリカ系アメリカ人):3893万人(12.6%)
  • アジア系:1467万人(4.8%)
  • 先住民と太平洋諸島人:347万人(1.1%)

ニュースでアメリカのヒスパニック人口が急増しているのを目にしたことがありますが、ヒスパニック系がそれまで最大のマイノリティー集団だった黒人の人口を上回ったのは、1990年調査以後のことだといいます。

本書では、アメリカ社会で長い間、多様で深刻な困難に直面し続けてきたアフリカ系アメリカ人の歴史がコンパクトにまとめられています。

対象としては、アメリカの独立前の奴隷貿易にはじまり、2008年にオバマ大統領がアフリカ系アメリカ人として初当選するまでが扱われています。

通読すると、人種というのは固定化された生物学的概念ではなく、社会的マジョリティーや政策によって時代とともに定義が変わっていく概念なのだと認識できます。

同時に、そのような歴史の中でもアフリカ系アメリカ人の弱者的立場は、依然として形を変えながらアメリカに残っていることも正面から受け止めなければならないのだと感じました。

コロンブスによってアメリカ大陸が発見されて以来、アフリカからやってきた人々は、多くが奴隷として、他方では植民地住民として奴隷主や為政者に虐げられてきました。

しかし社会的、経済的に困難な状況の中で、アフリカ系アメリカ人はジャズヒップホップといった新しい文化を生み出し、その影響は世界中に広がりました。

いままで深く考えたことはありませんでしたが、ヒップホップはラップと呼ばれる音楽と、ブレイク・ダンス、落書き(graffiti)、独特の服装全体を含む若者の文化全体を指します。

そう考えると、アフリカ系アメリカ人が世界的に与えた文化的なインパクトの大きさを実感できますね。

奴隷解放運動、公民権運動といった社会を大きく揺さぶる出来事がアメリカの歴史を変えてきた一方で、貧富の格差、麻薬との闘い、警察の「レイシャル・プロファイリング」(外観から判断して怪しいと思った車を止め、乗客の身体検査や車内捜査をおこなうこと)といった問題は根を張っています。

「犯罪者を甘やかす」ことが政治的自殺行為である現実のなかで、こういった問題に対して今後どのような政策が取られるのかに関心が向くようになりました。

本書を読まなければ、こういった観点は持てなかったと思います。

アフリカ系アメリカ人の歴史について書かれた本は数多くありますが、同じような内容だとしても文体や表現の仕方によって読者が受け取るものは異なります。

特に事実を淡々と時系列に列挙する必要がある歴史に関する本においては、著者の読者へのまなざしがどれほど込められているかが、長く読み継がれる一つの要因なのではないかと思います。

本書は多くの人に、長く読み継がれてほしい一冊です。

ぜひ読んでみてください!

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