こんにちは、アマチュア読者です。
今回ご紹介するのは、ライナー・マリア・リルケ(Rainer Maria Rilke)の『若き詩人への手紙・若き女性への手紙』です。
本書は130ページに満たない1冊ながら、詩人を志願する若者や苦しい境遇にある女性に向けた、自身の経験にもとづくアドバイス、労りと励ましのこもった美しい文章は、読む者の心に灯をともします。
ライナー・マリア・リルケ
プラハ生まれの著者リルケは、オーストリアの軍人だった父の影響で、陸軍士官学校に入学させられます。
しかし、その空気に耐えられずに約一年で退学してしまいます。
その後、リンツの商業学校で学びながら詩作を始めました。
プラハ大学やミュンヘン大学で文学、美術、哲学などを学んだあと、二度にわたるロシア旅行の体験を通じて文筆生活を決意します。本格的に詩をはじめとして小説、戯曲を多数発表しました。
ロシアの旅をつうじて、経験で素朴なロシア民衆の姿に感動した彼の経験は、『神さまの話』という短編集におさめられています。
リルケは一時、「考える人」で有名な彫刻家ロダンの秘書を務め、大きな影響を受けたといいます。本書を含め、生涯を通じて数多くの書簡も残されています。
自分の内面を掘り下げる
本書で一貫しているのは、「自分の内面を掘り下げること」の大切さです。
たとえば、自分の書いた詩がいいかどうか他人に尋ねるということについて、リルケは回答しています。
自分に自信を持てないときや、自分の生み出した作品が世間から評価されるか不安を感じるとき、人は自分の外に目を向けることになりがちです。
その姿勢に対して、リルケは自分の内側を掘り下げることを勧めます。
自分が書かずにはいられない根拠をさぐって腹落ちしてこそ、本気で創作活動に取り組むことができるのだと。
言葉を換えれば、「自分は思っている以上にいろんなことを知っている」ということになるでしょうか。
自分の心に耳を傾けて、何がしたいのかを汲み取ることは簡単そうに思えて難しいものです。
が、自分自身と対話することで無意識に考えていたことが意識にのぼり、実は自分はそのことを知っていたという経験はないでしょうか。
実際のところ、自分に助言をしてくれる人や手助けしてくれる人がいても、最終的に決断するのは自分自身だという当たり前のことは、ともすれば忘れられがちです。
答えは自分の中にすでにあって、周りの人の影響はその後押しにすぎなかったということもありますよね。
本書を読んでいて、こういった忘れかけていた経験を思い出しました。
詩人志望の若者に対してやさしく語りかけるリルケは、「自分の日常が貧しく思われるのであれば、その日常を非難するのではなく、自分自身を非難しなければならない」とも諭しています。
そうなっているのは、自分が日常の富を呼び寄せることができないからだというのです。
創作する者にとってのアドバイスではあるものの、「精神的な意味で貧困というものはなく、貧しく取るに足らない場所というものはない」という言葉にふれて、まわりではなく自分が変わることで世界は変わるのだと感じます。
リルケの座右の書
本書『若き詩人への手紙・若き女性への手紙』のなかで、リルケは短命の詩人ヤコブセンに最大の賛辞を送っています。
自分の蔵書の中で、どこにいっても手離せない書物は聖書とヤコブセンの作品であると書いているほどです。
また自分が創作の本質やその深さ、永遠性について教えられることのあった人物は、偉大なデンマークの詩人ヤコブセンとすぐれた彫刻家ロダンの二人だけであると述べています。
少年時代から自然科学を好み、大学で植物学を学んだほど自然を愛したヤコブセンの細やかな自然描写には感動します。
リルケが敬愛したヤコブセンが残した作品は数えるほどですが、岩波文庫から出版されている書籍に全作品がおさめられているので、こちらもおすすめです。
おわりに
今回はリルケの『若き詩人への手紙・若き女性への手紙』をご紹介しました。
読者の内面にやさしく語りかける文体は、「この人の言葉だから信じてみよう」という気にさせてくれます。
本書でリルケと手紙のやりとりをする若き詩人や若き女性のように、不安や悩みが尽きない方や、人生の岐路に立っている方には特におすすめです。
心に響く言葉に多く出会えると思います。
ぜひ読んでみてください。
本書を読んだのは、読書会というイベントで参加者の方に教えていただいたことがきっかけでした。
それまではリルケという詩人について何も知らなかったのですが、実際に読んでみて、人間に対するその深い洞察に感動しました。
自分の読書経験を広げるうえで、読書会をはじめとする読書イベントに参加することは非常におすすめです。
ご興味があれば、こちらの記事も読んでみてください。
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