【戦後を考えるヒント】加藤典洋『戦後入門』ちくま新書

歴史

こんにちは、アマチュア読者です。

今回ご紹介するのは、加藤典洋『戦後入門』です。

戦後というと、「いつから始まっていつ終わったんだろう?」と思われるかもしれません。

第二次世界大戦で連合国に敗れてから75年以上経過しても、いまだに「戦後○○年」ということが問題になっているのは、日本が終戦後にあの戦争を振り返って、これからどうしたいのか、何が必要なのかが国民レベルではっきりしていないからです。その意味で、日本の戦後はいまだに終わっていないといえます。

本書では、著者が日本の戦後について、それはいつはじまって、どんな問題をはらみ、戦後という現状から脱するにはどうすることが必要なのかを膨大な文献を参照しながら論じています。

わたしたちはテレビやインターネットのニュースを見ることに慣れきっています。

が、それでは戦後のつまみ食いになってしまって、その内実はよくわかっていないということが往々にしてあります(わたしの実感です)。

本書は635ページという新書としては大変ボリュームのある作品ですが、二つの世界大戦からはじまり、戦後と呼ばれる状況にいたった歴史的な経緯に多くの紙幅が割かれています。

第二次世界大戦という戦争がどのような特徴を持っていたのか、日本国憲法がどのような経緯で完成したのかといったことは、本書を一行一行丹念に読むことでわかってきます。

目から鱗が落ちる事実も見つかり、戦後について生半可に知っていることがいかに多いかを実感しました。特に、アメリカから押し付けられたともいわれている日本国憲法の根本思想には、国際連合の平和理念が織り込まれているという背景を知って、この憲法に対する捉え方が変わりました。

著者は本書以外にも戦後に関する著作を多く発表しています。『戦後入門』という本書のタイトルにはいくつかの意味が込められているといいます。著者自身が入門者になってゼロから戦後について考えたみた、大学で教えていた経験から学生の戦後に対する認識が希薄になっていることを痛感して「戦後」にも「入門書」が必要だと考えた日本人がこの国に「誇り」を持てるような戦後論を書きたい、といったことが執筆を後押ししたそうです。

本書を読んで思うのは、日本が戦後にアメリカから輸入した民主主義という政治システムがうまく機能しているのかということです。

世界に向かって、民主主義の立場ではっきりとあの戦争を二度と繰り返してはならないことを、後ろ向きではなく前向きに発信できるようになるには何が必要なのでしょうか。

現代では経済的な低成長、格差問題、気候危機が日本人の大きな関心事かもしれませんが、世界のなかで国家としてのプレゼンスをどのように高めるのかということも考えなければならないでしょう。

戦後という現在と未来を考えるための材料が本書には詰まっています。戦争について語るのは自由ですが、主観だけでなく本書のような事実にもとづいた情報をインプットすることで、自分の考えが整理されますよ。ぜひ読んでみてください。

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