こんにちは、アマチュア読者です!
今回は、ギリシア三大悲劇詩人の一人、ソポクレスの名作悲劇をご紹介します。
「これぞ人類の叡智」 ソポクレスが描く人間の宿命と悲劇
ギリシア悲劇の中でも、最も完成度の高い構成美と深い人間描写を誇るのが、三大悲劇詩人の一人ソポクレスです。
『ギリシア悲劇Ⅱ ソポクレス』(ちくま文庫)には、彼の作品のうち、全編が残っている7作品すべてが収録されています。
神々によって定められた運命に抗いながらも、逃れられない悲劇へと突き進む人間たち。
ソポクレスの卓越したプロットによって描き出されるその姿は、現代を生きる私たちにも深い共感と問いを投げかけてきます。
「これを悲劇と呼ばずして何を悲劇と呼ぶのか」と思わずにはいられない、人類の生み出した叡智です。
『ギリシア悲劇II ソポクレス』(ちくま文庫)の収録内容と構成
以前にご紹介した『ギリシア悲劇I アイスキュロス』と同様に、本書『ギリシア悲劇Ⅱ ソポクレス』では前段に予備知識として関連する他のギリシア悲劇やギリシア神話が紹介されています。
ギリシアにまつわる古典的な知識や教養がなくとも、各作品を楽しむ準備を整えることができる読者にやさしい構成です。
前提となる知識がない状態で読むのもおもろいですが、登場する人物や神々の背景がわかっていると、味わいに深みが出ます。
本書に収録されているソポクレスの作品7編は以下の通りです。
・トラキスの女たち
・アンティゴネ
・エレクトラ
・オイディプス王
・ピロクテテス
・コロノスのオイディプス
「オイディプス王」「コロノスのオイディプス」「アンティゴネ」はソポクレスの悲劇三部作と呼ばれ、そのインパクトは強烈です。
一度読んだら忘れられない読書体験となることは保証します!
2000年以上前にこのような作品が生まれていたことに驚くとともに、人間の喜怒哀楽は古今東西、大きく変わらないのだという思いに駆られます。
印象に残った箇所・場面
①宿命づけられたオイディプス王の絶望
「オイディプス王」では、テーバイの国を襲った疫病を治めるため、神託にもとづいて先王ライオスの死の原因を突き止めようオイディプスが翻弄します。
何も知らないオイディプス王は、真相が暴かれないことに苛立ち、傲慢な態度で家臣を焚きつけますが、次第に事実が明らかになるにつれ、その恐ろしさに圧倒されていきます。
この真相が現れるプロセスが絶妙で、話の内容を理解した上で何度読んでも、思わず唸ってしまう仕上がりです!
②悲劇三部作を読む順番
上述したとおり、「オイディプス王」「コロノスのオイディプス」「アンティゴネ」の三部作はソポクレスの代名詞ともなっています。
話の流れとしては「オイディプス王」→「コロノスのオイディプス」→「アンティゴネ」の順番ですが、ソポクレスが創作した順では「アンティゴネ」→「オイディプス王」→「コロノスのオイディプス」と続きます。
物語として読み進めるのか、著者が創作した順番にしたがってスターウォーズのような面白さを堪能するのかは読む人しだいです。
わたしは話の流れが滞らないように、オイディプス王から読みはじめましたが、どの順番で読んでもおもしろいと思います。
読む順番を考えるうえでの参考にしてみてください。
③狂気に陥るアイアスとオデュッセウスの人間味
本書の冒頭に収められている「アイアス」では、ギリシアの英雄アイアス(大アイアスと小アイアスのうち前者)が、女神アテナの力によって狂気のうちに恥辱にまみれた行為をおこない、このことが悲劇につながります。
元はといえば、名高い英雄アキレウス(アキレス腱の語源になった大人物)の死後、彼の武具をめぐってアイアスと知略縦横のオデュッセウスが争い、アイアスが敗北したことがきっかけで起こった悲劇。
この悲劇を終焉に導き、幕を引くのがオデュッセウスであるところに愚かしくもある人間の尊厳が感じられます。
『ギリシア悲劇II ソポクレス』をおすすめしたい読者層
本書は、以下のような考えをお持ちの方に強くおすすめします。
• ギリシア神話や悲劇に関心のある方
• 世界文学の名作を体系的に読みたい読書家
• ソポクレス以外の悲劇詩人(アイスキュロス・エウリピデス)との比較をしたい方
• 哲学的テーマ(運命、自由意志、倫理)に興味がある方
ホメロスとの関連から広がるギリシア文学の世界
「アイアス」を読むと、主要なキャラクターがギリシアの伝説的な吟遊詩人ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』にも登場していることがわかります。
『イリアス』では、ギリシアの絶世の美女ヘレネを、トロイアのパリスがスパルタ王メネラオスから奪ったことから始まったギリシア連合軍とトロイア勢の大戦争が題材になっています。
『イリアス』では、何といっても英雄アキレウスの凄まじい闘いぶりが圧巻です。
前半に描かれる神々と人間の思惑が絡まりあう戦争の描写も素晴らしいのですが、アキレウスの活躍はすべてを持っていってしまうほどの強烈なインパクトを残します。
『オデュッセイア』はトロイア戦争後、ギリシア連合軍として戦った知恵と武勇に秀でたオデュッセウスの冒険譚です。
「アイアス」では、神の力によって狂気に苛まれるアイアスを見る立場のオデュッセウスですが、『オデュッセイア』では彼が神々の意思に翻弄され続け、故郷イタケの地に帰るまで何年ものあいだ放浪を続けることになります。
いくつもの難題を突きつけられながらも、備わった知恵と勇気で一つひとつ切り抜けていく様子に手に汗を握りながら、一気読みしてしまうほどのおもしろさです!
古代ギリシアの吟遊詩人ホメロスと代表作『イリアス』『オデュッセイア』については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
ご興味のある方は、参考にしてみてください。

まとめ:『ギリシア悲劇Ⅱ ソポクレス』は強烈なインパクトを残す悲劇が満載
今回はちくま文庫から刊行されている『ギリシア悲劇Ⅱ ソポクレス』をご紹介しました。
「オイディプス王」をはじめとする、神々によって定められた運命に翻弄される人間たちが織りなす悲劇は一読の価値が充分にあります。
この機会にぜひ読んでみてください!
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