こんにちは、アマチュア読者です。
今回ご紹介するのは、服部英雄『蒙古襲来』です。
ロジカルに通説を覆す
蒙古襲来や元寇(げんこう)という言葉を聞くと、「鎌倉時代に強国モンゴルが日本に攻めてきたけど、神風が吹いて日本が勝利した」という話を学校で聞いた記憶がよみがえります。
思い返すと、神風は本当に吹いたのかはよくわかっていないということも聞いたはずなのですが、どうしてもドラマチックで刺激が強いストーリーを覚えてしまいがちです。
本書は蒙古(モンゴル、元)が九州に襲来した文永の役と弘安の役について、歴史家である著者が教科書に載っているような通説を覆します。
そのプロセスは、史料(歴史研究に使う文献や遺物)の徹底的な読み込みとロジカルな思考による丁寧な事実検証に尽きます。
直感に頼らず、史料を正しく読むことの大切さは本書に満ち満ちています。
著者の歴史に対する真摯な姿勢や熱い想いが行間から伝わって来て、迫力がありました。
元寇について、言葉として何となく覚えてそのままだった私は、本書を読んで感動しました。
そこには、思い浮かぶ「なぜ?」がどこまでも論理的に解き明かされており、著者が通説を間違ったものと断言する根拠が膨大な資料の正確な読み込みから説明されていたからです。
蒙古襲来絵詞
古文書だけではなく、教科書にも載っている「蒙古襲来絵詞」(もうこしゅうらいえことば)を関連史料と照らし合わせて、細部にいたるまで事実確認がなされています。
「蒙古襲来絵詞」は竹崎季長(たけさきすえなが/たけざきすえなが)が参戦した経験を絵師に頼んで描いてもらった絵巻物です。
この作品は絵師集団の分業によって完成されたものだといいます。
マンガやアニメでも背景とメインキャラクターで担当者が異なるように、大作と呼ばれるものの多くは分業の賜物なのでしょう。
著者は「蒙古襲来絵詞」に登場する人物の武具や携行品が身分にふさわしいものなのか、船の漕ぎ手の姿勢は当時の実情に即して描かれているのかなど、絵の細部まで検証していきます。
それだけではなく、ところどころに絵についての説明書きがされているのですが、著者はそれぞれが当時の状況と整合性が取れているのかも緻密に検証しています。
読んでいて、「ここまでやるのか!」と圧倒されたのですが、史料には後世での付け足しや改竄が行われることが多いということがわかって納得しました。
本書にも改竄の例が多く取り上げられていて、著者が一刀両断していく様子は痛快です。
おわりに
今回は、服部英雄『蒙古襲来』をご紹介しました。
本書は文永の役と弘安の役において伝えられる戦況を丹念にたどり、綿密な検証を経て蒙古襲来を再構成しています。
本書が出版されたあと、歴史学者によっては、モンゴルが蒙古襲来に至るまでの経緯についても紙幅を割いて検証するべきだという声も上がったようです。
しかし一般読者のわたしにとっては、神風という神話・伝説を疑い、事実に迫る試みは素晴らしいと思いました。
一般の人でも歴史に興味が湧くテーマであり、著者の歴史に対する熱い想いがあふれている一冊です。ぜひ読んでみてください。
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