【立ち上がれ】米長邦雄 『不運のすすめ』 角川oneテーマ21

新書

勝負の世界は厳しい。

好きで始めたことでも勝負で負け続ければ逃げ場をなくして途方に暮れることもあるだろう。

ましてや、その世界のトップを走ってきた一流の人となればその苦労も一層大きいだろう。

本書は棋士として勝負の世界を生きてきた米長邦雄の人生訓である。

著者いわく、スランプに陥ったとき、一番よくないのはコーチのような人に付いて、あれこれ言われて考え込むことだという。

さらにひどくなったり、スランプが長引いてしまう。

明らかに目につく欠点は、人に指摘されなくても気づくものだし、すぐに反省できるのだから長々と考え込んではいけない。

著者の場合、スランプに陥るとスケジュールをやりくりしてラスベガスに行き、ギャンブルをしながら人前で口にできない言葉を絶叫して連呼していたようだ。

笑いと勢いでショックを吹き飛ばして、帰国するときには連戦連敗など、どうでもよくなったという。

ここまで極端にならなくとも、行ったことのないところに行って普段の日常とは異なる環境に身を置くことは、気分を変える貴重な時間になるだろう。

不満不平を抱えた生活から得るものは何もない。

反省の仕方についても学ぶことが多い。

負けたときは素直に技術的な問題を反省するとともに、「なぜあんな悪手を指したのか」という心理的問題を見つめなおすのが現役時代の習慣だったと書かれている。

うまくいかなかったことについて、さまざまな視点から振り返るのは効果がありそうだ。

スキルの視点、感情の視点、環境の視点など、見直すポイントが多いほど得るものも多くなるだろう。

著者についてのドキュメンタリー番組を観たことがある。

特に印象に残ったのは、負け続けていた時期に、自分より27歳年下の羽生善治をはじめとする若手の棋士から学んで自分の将棋を立て直したということだ。

勝負の世界で生きている人間には簡単にできることではないだろう。

午前中に対局が始まり、午前零時まで対局をして、帰宅するのは深夜二時過ぎになることもある。

そういう生活を何十年と続けるのは並大抵のことではない。

それでも、「やりたいことがやれない人生、やりたいことがやれない将棋、それはつまらない」と語っていたのが印象的だった。

そのドキュメンタリーを観たあとに、羽生善治のドキュメンタリーも視聴した。

AI時代の将棋に対応すべく、彼は時代の寵児である藤井聡太の将棋を見て学んでいるという。

羽生善治と藤井聡太は年齢差からいえば、親と子ほど離れている。

一昔前の米長邦雄と羽生善治の関係と同じである。

過去の栄光を捨てて、自分の将棋が上手くなるには何をすればいいのかを素直に考えて行動できる人。

その姿勢をみて、さまざまな思いが去来した。

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