こんにちは、アマチュア読者です。
今回ご紹介するのは、柿沼陽平『古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで』です。
本書は秦漢時代の中国が舞台です。当時の一般人がどのような生活を送っていたのかを24時間密着する形で著者が書き上げています。本書を数ページ読んで、わかりやすい文体や「古代中国の人達ってこんなことしてたの!?」と興味を引くトピックが多く、すぐに引き込まれてしまいました。
古代中国の基礎知識
古代中国に馴染みがなくとも、『論語』をご存じの方は多いのではないでしょうか。春秋時代(2500年以上前)に孔子という人物が弟子に残した語録です。現代の日本でも『論語』が説く高い理想に惚れ込む方はいらっしゃると思います。
『論語』をはじめとする儒教思想の特徴として、子供には父母や祖父母に孝を尽くすことを求められます。男性の子孫を残して血統を絶やさないことだけでなく、父母・祖父母を敬って、朝早く起きて面倒を見ることも孝に含まれるといいます。孔子が弟子に残した語録であり、現代でも孔子の子孫が崇拝されていることもあり、古代中国では論語の儒教思想があまねく行きわたっていたのだと思っていました。
しかし本書を読むと、儒家の経典である『礼記』(らいき)には「礼は庶人(しょじん)に下らず」(庶民は儒学のマナーを守らずともよい)という記載があり、現実的には一般庶民は礼儀作法にしばられていなかったそうです。実際には、子供ではなく家内奴隷や母親が一番に起床していたケースが多かったようなので、『論語』はあるべき姿を理想として掲げていたからこそ人口に膾炙したのでしょう。
『論語』を読み返してみましたが、孔子が周王朝の文化を創建した周公旦(しゅうこうたん)に憧れて、理想に燃えている描写がありました。
秦漢時代の人々の名前は、姓・名・字(あざな)からなるといいます。親が子の、君主が配下の名を呼ぶのはよいけれど、普通の人同士が名を呼び合うのは失礼とされ、代わりに字で呼び合うなど独特のルールが決められていたそうです。
中国の古典でも同じ登場人物がさまざまな名称で呼ばれていますが、こういった取り決めがもとになっているんですね。古代中国では、「君の名は」ではなく「君の字は」が正しいことになります。
なんとなく知っていると思っていることでも、よく考えてみると全然わかっていませんでした。本書のように、その時代の前提条件を丁寧に説明してくれる本を読むと自分の知識不足が補えますね。こういった大事な知識は、中国に関連する他の書籍を読むときに頼りになります。
垣間見える古代中国の生活
本書は、古代中国に生きていた人々の食事や服装、髪型、化粧、口臭エチケット、さらには夜の営みなど、日常生活にかなり突っ込んだ内容になっています。
エンタメ要素が多い印象ですが、「ここまで書いてくれると古代のことがわかってくるなぁ」というのが私が読んだ感想です。私のような凡人は、歴史に関する基礎知識が欠落しているため、見慣れない専門用語に出くわすと時間が止まります。時間を止めずに何とか読めるときでも、言葉の意味が曖昧にしかわかっていないので、読み終わったときに何となくわかった気がするものの、あまりにも漠然とした理解のために頭に残らないことがあります。
そういった意味で、本書は歴史に馴染みのない読者を想定して丁寧に説明がされているので、読みやすいうえに日常生活を対象としているので親しみが持てます。歴史に関するこういった本が今後も多く出版されればなぁと思います(もちろん著者の細部にわたる一次資料の読み込みや、巻末注に対するこだわりには頭が下がります)。
顰に倣う(ひそみにならう)
化粧に関連づけて、故事成語の由来も紹介されています。かつて伝説的な美女の西施(せいし)は、胸を病み、眉をしかめたことがあって、その様子はえもいわれぬ美しさだったそうです。それをある田舎のブサイクが真似したところ、金持ちは門を閉ざし、貧乏人は一目散に逃走したといいます。
これが「顰(ひそみ)に倣う」の由来で、中国古典の『荘子』が出典ということです。老荘思想で有名な『荘子』はいつか読みたいと思っているのですが、まだ読めていない作品なので興味が湧きます。
おわりに
今回は、柿沼陽平『古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで』をご紹介しました。歴史が好きな方も、歴史に馴染みがない方も楽しめる一冊です。
古代中国に生きた人々の日常生活を知ることで、過去と現在をつなぐ歴史のおもしろさがわかります。著者の語りかけてくるような文体は読みやすく、最初の数ページを読むだけで「おもしろそうだな」と思えます。この機会にぜひ読んでみてください!
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