【対岸の火事ではない】コ・ギョンテ『ベトナム戦争と韓国、そして1968』

ノンフィクション

こんにちは、アマチュア読者です。

今回ご紹介するのは、コ・ギョンテ『ベトナム戦争と韓国、そして1968』です。

著者は韓国の新聞社「ハンギョレ」の記者で、ベトナム戦争の記事を担当していました。

ベトナム戦争では、アメリカが北ベトナム側にたいして使用した枯葉剤の後遺症に苦しむ人々が数多くいました。これは社会問題になるほどで、韓国では枯葉剤後遺症戦友会の2000人以上が新聞社を襲撃し、著者もこの事件を経験したといいます。

ベトナム戦争については曖昧なことしか知りませんでしたが、本書を読むとベトナムとアメリカはもちろん、韓国も関わりがあったことがわかります。さらに民間人に焦点を当てた内容のため、興味が湧きました。

本書では、おもにベトナム中部に位置するフォンニ・フォンニャット村で起こった民間人虐殺事件が取り上げられています。被害者の証言だけでなく、事件に関わった人々が戦後にどのような生活を送ったのかが丁寧に記述されています。著者がおこなった度重なるインタビューがもとになっており、本書を読むと、彼の事実に近づきたいという信念が伝わってきます。当時の写真も数多く掲載されており、その中には目をそむけたくなるものもありました。

後半では、ベトナム戦争にまつわる社会情勢として、日本人のことも述べられています。ベトナム戦争に反対し、日本の反戦平和団体であるベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)の代表を務めた小田実や、脱走兵の亡命をサポートすべく尽力した高橋武智がその代表です。

小田実が1961年に22ヶ国を世界一周した後に著した『何でも見てやろう』は、現在でもさまざまな書籍の中で紹介されるロングセラー作品です。

彼は留学していたハーバード大学の図書館で、1945年6月15日のB29機による大阪大空襲の航空写真を発見します。花火のように華々しいその写真を見て、爆撃の本質は鳥の目で見る「鳥瞰図」ではなく、土の上の虫の目で見る「虫瞰図」だと悟ったといいます。この言葉は非常に印象に残りました。

本書を読んで、人間を戦場に置いてはいけないと強く感じました。当たり前のことかもしれませんが、戦争は味方と敵をつくり、憎しみを倍加させ、話したこともない多数の人間がお互いに傷つけあいます。それがわかっているのに歴史が繰り返されてしまうのは、個人の思考ではなく、国家という想像の共同体が生み出す利害関係があるからだと思います。

本書のように、一次情報にもとづいて編まれたノンフィクション作品が多くの人に読まれることで、世界は少しずつ変わっていくはずです。韓国からの視点で書かれた作品ですが、世界大戦に深くかかわった日本も対岸の火事ではないと考えさせられました。

著者が述べているように、歴史は有用な鏡であるとともに不都合な鏡でもあります。鏡をまっすぐ見て、まずは自分の顔から見つめ直すことができるかどうかが、歴史を繰り返さない一歩になるのです。

著者は鏡を直視し、自分がなすべきこととして本書を執筆しました。並々ならぬ想いが込められた本書を、ぜひ読んでみてください。

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