こんにちは、アマチュア読者です!
今回ご紹介するのは、森毅、竹内啓『数学の世界』です。
本書では数学者である森毅氏と、経済学が専門で応用数学者の竹内啓氏が、二日間にわたって数学をめぐる対談をした内容がまとめられています。
本書の構成
本書は三部から構成されていて、第一部は「数学の世界を獲得する」、第二部「数学の世界をふりかえる」、第三部「数学の世界を楽しむ」です。
全体を通して第一部が一番難しく、出鼻をくじかれる思いがしました(笑)。
ある程度の数学の素養がない、私のような読者には理解できない箇所が多く見られましたが、「理解できる所がわかればいい」「難しい数式はざっと目を通す程度にする」くらいのスタンスで何とか読み通せました。
馴染みのない世界の話は「とりあえず、ある程度わかれば満足」という気持ちで臨むのが楽しむコツではないかと思います。
難しい数式や難しい数学的思考の話が飛び交いますが、数学を子供たちによりよく教えるにはどういった教育が必要なのかと言うことが議論されていて、「数学の世界の住人たちはこういうことを考えるのか」と新鮮な気持ちになりました。
日常生活で、数学者たちが数学の話をしている場に居合わせることは、かなり稀だと思います。
数学に精通している著者二人が、数学にまつわる教育法について、世界的に見た数学の歴史について、最後に数学の面白さ楽しみ方について、ときに独自の意見を闘わせながらも語り合っているところは読み応えがありました。
本書はもともと、1973年に『数学の世界 それは現代人に何を意味するか』というタイトルで中公新書から出版されています。
このたび中公文庫から改めて出版されましたが、50年近く前の対談でありながら古めかしさを感じるところは少なく、数学の世界に身をおく著者二人の縦横無尽な思考に圧倒されました。
教養がある人の話はおもしろい
本書を読んでいるとわかりますが、著者二人は数学だけに精通しているのではなく、歴史や古典にも造詣が深いです。
特に第二部では、世界的に見た数学の歴史を時系列に語り合いながら、その当時の思想家や権力者、社会情勢にも触れているところは教養の豊かさを感じます。
専門分野の知識だけではなく、リベラルアーツを学んでいる人の話は面白いですね。
居住まいを正した対談
本書の解説を担当した読書猿さんもお書きになっていますが、本書では森毅氏が竹内啓氏に詰め寄られて、回答を迫られる場面が特に序盤に多く見られました。
私も読書猿さんと同じように森毅の作品が好きで、これまで多くの対談本やエッセイを読んできました。
その経験から森毅というと、のんびりした雰囲気の語り口が特徴的なイメージを持っていましたが、本書ではだいぶ趣が違っていて、居住まいを正して真摯に数学の話をされている印象を持ちました。
その意味だけでも本書の独自性が現れていて、おもしろかったです。
著者の数学観に引き込まれる
本書のはしがきで、竹内啓氏の数学観が述べられています。
これを読んで「この本は読むしかない」と観念しました。
最初の数ページで引き込まれる作品はおもしろいことが多いですよね。
詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、「不完全な考えを持っている人間によって数学が形づくられてきた以上、数学は絶対に正しいものではない」という考えは、数学初心者からはなかなか出てこないもので素敵に感じました。
おわりに
今回は森毅、竹内啓『数学の世界』をご紹介しました。
数学にまつわる内容の濃い対談を通じて、読み手はタイトルにあるとおり数学の世界に足を踏み込むことができます。
「数学になじみがない」「数式を見るとじんましんが出る」という方もわかるところだけでも読んで、知らない世界を経験していただきたいと思います。
きっと世界の見方が変わりますよ。
平民君と在野君を登場させて対話形式で話を展開していく、読書猿さんの解説も秀逸です。
ぜひ読んでみてください。
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