【言われてみればそうかもしれない】ウスビ・サコ『ウスビ・サコの「まだ、空気読めません」』

エッセイ

こんにちは、アマチュア読者です。

今回ご紹介するのは、ウスビ・サコ『ウスビ・サコの「まだ、空気読めません」』です。

著者はアフリカのマリ共和国で生まれ、中国や日本の大学で学び、現在は京都精華大学の学長をされています。中国には国費留学生として留学していたそうなので、頭脳明晰なことは言うまでもないのですが、本書を読むと著者の日本文化に関する鋭い視点が随所に見られ、普段からものごとを深く考えている方なのだと感じました。

思わずハッとさせられる指摘がいくつもあって、日本人が当たり前だと思っている慣習を考える契機になりました。

わたしは以前、著者の『アフリカ人学長、京都修行中』という作品を読んだことがあります。日本人でもよくわかっていない京都の文化の奥ゆかしさと難しさが文章から伝わってきて、著者が経験している「京都修行中」という言葉がぴったりの内容でした。読んでおもしろかったので、この本を紹介する記事も書いています。

本書『ウスビ・サコの「まだ、空気読めません」』では、日本文化の良いところも悪いところも包み隠さず書かれています。『アフリカ人学長、京都修行中』に比べて、日本の文化や日本人のふるまいにかなり突っ込んだ内容になっていておもしろかったです。

特に言葉どおりに受け止めると肩透かしをくらう体験が盛りだくさんで、たしかに自分が何も知らずに日本で生活していたら同じ経験をしただろうなと思うことが多くありました。

僕はコーヒーだ

著者は日本語を勉強していたとき、カフェや喫茶店で注文をする場合、「何になさいますか?」「私はコーヒーで」と答えることに違和感を覚えたといいます。

英語であれば、”What do you want?” “I’m coffee.” という答えになっていますよね。

日本文化に馴染みのない人にとっては、言葉を省略する日本のコミュニケーションスタイルは理解に苦しむのでしょう。日本人でも英語を勉強していて省略されている言葉があったら、「いったい何が省略されているんだ?」とわからなくなりますよね。特に英文法では思い当たることがあるのではないでしょうか。英語にかぎらず外国の言語を勉強すると、「私はコーヒーで」と同じような経験をすることになりそうです。

「ブタ」と「トン」

ムスリム(イスラム教徒)である著者は、イスラム教の教義にしたがって処理された食材を使った料理を食べています。イスラム教の教義にのっとっていることを「ハラール」と呼び、最近ではハラール・フードを提供する店が増えていますが、著者が来日した1990年代初頭はそのような飲食店は少なかったといいます。

いまのように異文化交流が盛んではなく、宗教を含めた相互理解が大衆レベルで進んでいなかったのかもしれません。

イスラム教では豚肉禁止、飲食禁止などの教義がコーランで定められていて、ムスリムがそれらを遵守することを求められます。著者は日本に来て、「ブタ」を食べないこととお酒を飲まないことを決めたそうですが、豚が部位や調理のしかたで呼び名が変わることは知らず、痛い目に遭ったことが綴られています。

詳細を書くことは控えますが、次の一言には思わず笑ってしまいました。

この「トン」って食べもん、めっちゃうまいやん……。

おもてなしでの落ち込み

「おもてなし」は東京オリンピックの誘致プレゼンで話題になりましたが、捉え方によっては提供する側の一方的に押し付けになってしまう可能性をはらんでいます。

本書では、著者が日本に初めて来日したときに受けた「おもてなし」についても綴られています。朝、昼、晩と美味しい料理が大量に提供され、食べ終わったら風呂が準備されていて、ホストファミリーは準備で忙しそうに動き回っているのを見て申し訳ない気持ちになったといいます。

自分には何も言わず、迷惑をかけないことが受け入れ側のおもてなしだったのです。直接のコミュニケーションを大切にしていた著者はコミュニケーション・ギャップにショックを受けて落ち込んだそうです。

その一方で、遊びに来ていた小学生のお孫さんは気兼ねなく接してくれて、ホームステイが終わった後も年賀状の交流が続いたといいます。

彼はその後、著者のホームステイ経験をきっかけに外国に興味を持って大学で博士号を取得し、海外駐在を経験したそうで、日本に帰国後、何と著者の職場である京都精華大学の学長室を訪ねてくれたというエピソードが紹介されています。

人生何が起こるかわからないことの一例ですが、オープンマインドで楽しく交流することの大切さが伝わってきます。

日本のおもてなしには、できるだけ個人を出さず、有無を言わせない部分があります。それが日本文化の美徳に深く関わっているのは間違いないのですが、グローバルに見ればそれは特異なことなのかもしれません。

自分の国の文化を十分に理解し、外国の文化を学びながらさらにそれを深めていくことが、これからの私たちに求められているのでしょう。

著者は本書のなかで、日本文化を熟知しながらグローバルに活躍する人物の一人として、裏千家の千玄室氏を挙げています。

千玄室氏は若い頃にハワイ留学した経験があり、「茶道留学制度」を打ち出して何十カ国もの国々から修道生を受け入れ、積極的に国際交流を生み出しています。

その千玄室氏は「日本人が真の国際人になるには日本の文化を知らなければならない」と強調しています。彼が著した『いい人ぶらずに生きてみよう』という作品はおもしろかったです。彼のものごとに対する考え方がよくわかる一冊です。

おわりに

今回は、ウスビ・サコ『ウスビ・サコの「まだ、空気読めません」』をご紹介しました。

著者が日本に来て体験して理解した日本文化の特徴や違和感、改善のための提案など、日常的な会話ではふれることのない話題が盛り込まれています。

日頃の自分のふるまいについて、立ち止まって考える機会を与えてくれる素晴らしい本です。ぜひ読んでみてください。

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