こんにちは、アマチュア読者です!
今回は、近代日本における最大の啓蒙家である福沢諭吉のおすすめ名著をご紹介します。
「福沢諭吉の本を読んでみたいけど、どれから読めばいいんだろう?」
「教養を深めたいけど、古典って難しそう…」
こんな考えをお持ちの方におすすめしたいのが、福沢諭吉の三大著作である『学問のすゝめ』『文明論之概略』『福翁自伝』です。
福沢諭吉とは? 思想家・啓蒙家としての顔
福沢諭吉(1835–1901)は、明治時代の日本に西洋近代の思想を紹介し、「独立自尊」「実学尊重」を掲げた啓蒙思想家です。
彼は身分制度の否定と教育の普及を通して、人々が自らの力で生きることを訴え続けました。
渋沢栄一のひとつ前の一万円札の顔として知られていますが、その著作は単なる歴史的史料ではなく、現代に生きる人々にとっても考えるヒントが詰まった第一級の古典作品なのです。
『学問のすゝめ』 学ぶことで人は自由になる
『学問のすゝめ』は1872年から発行された全17編の啓蒙書で、福沢諭吉が39歳から43歳のときにいたるまで約5年にわたって出版された小冊子をまとめたものです。
歯に衣着せぬ言論で、明治時代に入ったばかりの日本人の心を刺激し、封建的で旧態依然とした思考を打破しようとする覇気が文章から伝わってきます。
当時の人々に多大な影響を与え、正確な数字は詳らかになっていないものの、大ベストセラーになりました。
初編の一節「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり」は、現代でも有名なフレーズです。
人間は生まれながらに貴賤の差別なく、衣食住は整っていて、互いに自由を侵害しないかぎり人生を謳歌できるはずなのに、実際のところは賢い人と愚かな人がいて、裕福な人と貧しい人がいる。
その相違を福沢諭吉は、「学ぶと学ばざるとに由って出来るものなり」と語ります。
では何を学ぶのか。
それは実生活に役立つ学問で、本書では地理学や歴史学、経済学などが例として挙げられています。
ただ難しい言葉を知り、難解な本を読み、和歌を楽しみ、詩を作るような実のない学問は、それほどまで崇め奉るものではないと福沢は主張します。
しかし、仕事に直接役に立つ勉強をしさえすればよいのかと、そういうわけでもありません。
たとえば自分の富を増やして、酒に溺れ、放蕩を尽くすことはその人の自由だというのは間違っているといいます。
放蕩することは他人が真似をする前例となってしまい、世間の風俗を乱し、ひいては人の教えに妨げとなってしまうために、稼いだお金はその人のものだけれど、その罪は許してはならない。
「他人の妨げをすることなく、自分の自由を達成してこそ一人前の人間である」という福沢諭吉の主張は、自由であるようで不自由さを抱える現代社会に生きる人々にも響く言葉ではないでしょうか。
本書に通底しているのは、福沢諭吉の熱意あふれる「学問をしろ!」というメッセージです。
政治一つをとっても、人民が政府と相対して同等の地位にまで登らなければ暴政は避けられないと福沢諭吉は語ります。
自分の国の政治に絶望するのではなく、まず自分が勉強して変わることこそ学問の趣旨であるという考えに啓蒙された人々は多かったのでしょう。
現代でも状況は同じであり、本書の内容が普遍的であることは間違いありません。
『文明論之概略』 文明の本質と目指すべき姿
「文明論」というのは、人間精神の発達についての議論であり、個人の精神の発達のことではありません。
世の中の多くの人の精神発達を大局的に捉え、その発達について論じるものであると福沢諭吉は定義します。
したがって、「文明論」を「集団精神発達論」と読み替えることもできます。
1953年のペリー来航を皮切りに、西洋諸国と貿易条約を結んでから、日本の国民は初めて西洋の存在を知り、その文明のあり方が日本と大きく異なることに驚き、精神に大きな動揺が起こりました。
福沢諭吉は、この精神的動揺を日本国民が文明的に進もうと発奮している状態だと捉えました。
いままでの日本の文明に満足せず、西洋文明を手に入れたい熱心さのあらわれだとみなしたのです。
大変な状況にありながら、この事態を我が身で直接経験していることは幸運であり、大切な機会であると考えた福沢諭吉は、後世の人には得難い、彼自身が得た経験を大事にして見解を書きとめ、後の参考になることを願って1875年に生まれたのが本書『文明論之概略』です。
「議論するには前提を合わせよ」「なぜ西洋文明を目指すのか」「文明の本質」など、福沢諭吉が西洋との接触において経験し、考えたことが平易な言葉で述べられています。
古今東西の文献を渉猟した彼の論考は、現代人が読んでも違和感がなく、それだけ福沢諭吉がグローバルな視点を明治初期に持っていたことを物語ります。
福沢諭吉が身につけていた思想のバランス感覚と、文明論を語るうえでの覚悟が本文から伝わってくる名著です。
『福翁自伝』 福沢諭吉の人となりが一番よくわかる
福沢諭吉が晩年に口述した自伝であり、幼少期から晩年までの歩みを飾らない語り口とユーモアを交えて描いた魅力的な作品です。
1897年に口述筆記の形で書かれ、彼の死の前年に刊行されました。
豊前中津藩の下級武士の家に生まれた福沢諭吉は、貧しい生活の中で学問に勤しみ、大阪の緒方洪庵が経営する適塾で蘭学を学びます。
猛勉強の甲斐あって、幕府の命で渡米・渡欧し、欧米文明の進歩と合理性を身をもって経験し、深い感銘を受けます。
帰国後は慶應義塾を設立し、西洋の実学・独立自尊の精神を広めることに尽力しました。
その一端が『学問のすゝめ』や『文明論之概略』です。
本書『福翁自伝』では、政治家や官僚の道を選ばず、一貫して教育と人民の啓蒙に力を注いだ姿勢が詳述されており、福沢諭吉の信念がよく表れています。
この記事でご紹介している他の作品と比較して、口語調で人間味あふれる語り口であり、自分の失敗や恥ずかしい経験を隠すことなく赤裸々に語っているので非常に読みやすいです。
西洋との出会いによって精神的に動揺していた当時の日本にあって、権力に媚びることなく独立自尊を貫き、自らの信じた道を突き進んだ福沢諭吉の生きざまに心を動かされる読者は多いのではないでしょうか。
『福翁自伝』は単なる成功者の回想録ではなく、時代の荒波に揉まれながら、何を目指すべきなのかを自分の頭で考え、迷い、葛藤しながら学び続けた福沢諭吉という人間の物語です。
知識や地位に驕ることなく、理想と現実のあいだで誠実に生き抜いた福沢の姿勢から学ぶことは多いはずです。
おわりに
今回は、福沢諭吉の『学問のすゝめ』『文明論之概略』『福翁自伝』をご紹介しました。
これらの作品は、明治という時代を超えて、現代人にもこれから歩んでいく人生のヒントを与えてくれる名著です。
「なぜ学ぶのか?」「文明とは何か?」「自分はどう生きるべきか?」
こうした根本的な問いに向き合い、自分という存在についてじっくり考えてみたいとき、福沢諭吉の言葉はあなたの思考の礎になるはずです。
この機会に、ぜひ読んでみてください!
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