【これは読んでほしい!】アイヌの歴史と文化を知るおすすめ名著

読書まとめ

こんにちは、アマチュア読者です!

今回はアイヌの歴史と文化を知るおすすめ名著を紹介します。

アイヌという言葉を見たり聞いたりするとき、何をイメージするでしょうか?

わかるような、わからないような漠然とした印象を持つ方が多いのではないでしょうか。

あるいは、自分とは関係のない世界の話だと考える方もいるかもしれません。

「アイヌ」というのは人間という意味で、東北地方から北海道、サハリン、千島列島などに住んでいた人々が使っていた言葉です。

アイヌの人々は大自然のなかで、独自の言語を運用し、共同体で自給自足の生活を営んでいました。

しかし江戸時代以降、アイヌの地に足を踏み入れた人々によってアイヌは開拓され、山野は村に、村は町に次第に変わっていきました。

アイヌの人々が大切にしていた自然は失われていき、その開拓の一端を担わされもしました。

自分たちの暮らしぶりや大切にしている価値観が薄れていくことを危惧し、アイヌの人たちはその文化を本の形で書き残しました。

自然の恩恵を受けているという実感は日々の生活におけるふるまいに現われ、その様子はアイヌの人たちが作り上げた本を読むことで伝わってきます。

神々や自然を敬うその姿勢は尊く、美しい表現で編まれた文章は、読む者の心を洗い流してくれます。

知里幸恵『アイヌ神謡集』

アイヌに生まれ、アイヌ語の中で育った著者が、アイヌ民族のあいだで語り継がれてきた叙事詩(ユーカラ)を13篇選んで編んだ作品が本書アイヌ神謡集です。

アイヌ語を発音どおり厳密にローマ字で書き綴り、日本語の口語訳を付記した本書が完成するにはどれほどの時間がかかったことでしょう。

二十歳でこの世を去った著者が残した魂のこもった本書には、梟(ふくろう)の神や小狼の神、海の神などの神々や動物たちが自ら歌った謡がおさめられており、人間の喜怒哀楽や自然に対する感謝の気持ちが素直に表されています。

著者の詩的表現にすぐれた口語訳には花鳥風月の尊さが感じられ、読んでいて気持ちの良い作品です。

本書『アイヌ神謡集』の終わりには、アイヌ語研究の第一人者である金田一京助氏が著者の素性について書き記した文章が収録されています。

次の一文は、短い生涯の中で著者が果たした文化的功績に対して尊敬の念が込められています。

か弱い婦女子の一生を捧げて過去幾百千万の同族をはぐくんだこの言葉と伝説とを、一管の筆に危く伝え残して種族の存在を永遠に記念しようと決心した乙女心こそ美しくもけなげなものではありませんか。

知里幸恵『アイヌ神謡集』

萱野茂『アイヌの碑』

北海道の二風谷(にぶたに)で生まれ育ち、アイヌの生活に親しんだ萱野茂氏による自伝であり、書き上げるまでに5年の歳月が費やされています。

著者自身が語っているように、本書は文字を持たなかったアイヌ民族の一人の男が日本語で書いたアイヌの碑(いしぶみ)といえます。

本書にはかつてのアイヌの生活ぶりが記されています。

アイヌが肉を必要とするときは林に入っていき、弓矢で鹿を獲り、ときには乾燥肉をつくって貯蔵する。

秋になると鮭を必要なだけ獲り、干物や燻製にして保存する。

そして獲物に対して丁寧に礼をし、今日はこの家においでくださって、ほんとうにありがとうと感謝の言葉を伝え、いろりの火に向かって火の神に祈る。

こういった振る舞いを当たり前のこととして日々と営むということが、どれだけ尊いことなのかを思わずにはいられません。

一方で、その後のアイヌ民族が背負わされてきた苦難の道は想像を絶するもので、本書を読むとその生活の壮絶さが伝わってきます。

自分一人ではどうすることもできない逆境の中でも、著者は20年のあいだ山仕事をしながら、私財を投げ売ってはアイヌ民具を収集し、1972年には「二風谷アイヌ文化資料館」を開館するなどアイヌ民族の文化伝承に努めました。

本書を読むと、江戸時代以降、特に明治時代に入ってからアイヌの地を目指してやってきた人々がアイヌ民族に対して杓子定規に押しつけた法律や、政府・財閥による自然の収奪、アイヌに課した過酷な強制労働・強制移住に違和感をおぼえます。

多様性が叫ばれる現代では、少数の人々の立場から長期的な視野でものごとを考える視点が不可欠です。

本書は多様性とは何か」「失われていく文化を守るためには何が必要なのかを考えさせてもらえる意味でも貴重な作品であり、未来に向けた著者からの贈り物だと感じます。

金田一京助・荒木田家寿『アイヌ童話集』

アイヌ語研究の第一人者である金田一京助氏がアイヌ語の原文から忠実に翻訳した物語を、その末弟で映画製作に精通する荒木田家寿氏が児童向けに編み直したのが本書アイヌ童話集です。

アイヌの人々が語り継いできた昔話や神話が読みやすい文体で綴られているので、アイヌ文学に初めてふれる読者には特におすすめです。

口のきけない子どもが熊と取っ組み合いをする話、正直じいさんと意地悪じいさんの話、人祖オキクルミの英雄譚など、おもしろい物語が数多く収められていて、思わず一気読みしてしまう内容です。

人間の姿をしているにもかかわらず、神様かそれ以上の強さをもつオキクルミの話は連作になっており、次から次へとやってくる難題をこなしていく姿はギリシャ神話のヘラクレスとも重なります。

ヘラクレスの英雄譚はのめり込むほどの面白さですが、オキクルミの話もそれに劣らず時間を忘れて読み耽ってしまいます。

本題から脱線しますが、ギリシャ神話のおすすめ名著についてはこちらの記事で紹介しているので、参考に掲載しておきます。

本書を読んでいると、アイヌの人々にとって神様は一神教のように隔絶した存在ではなく、相互扶助する存在として親しみをこめて敬う対象だったのだと思えてきます。

童話集ということもあり、児童向けに編集された本書は子供の道徳心向上に配慮し、一部表現が改められていますが、アイヌについて知りたい初学者にとっては、厳密さよりもまずは大まかな範囲で物語を楽しむことのできる本書はおすすめです!

おわりに

今回はアイヌの歴史と文化を知るおすすめ名著を紹介しました。

アイヌが営んできた生活やその中で育まれた文化、その後の苦難の道について理解が深まると、遠い世界のように思えたアイヌが身近に感じられるようになります。

アイヌの地は日本の一部であり、その歴史や文化を知ることは日本を知ることになります。

この機会にぜひ読んでみてください!

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