【日本が学んだ平和とは】日本戦没学生記念会篇『きけ わだつみのこえ』

古典

こんにちは、アマチュア読者です!

今回ご紹介するのは、日本戦没学生記念会篇『きけ わだつみのこえ』です。

本書は日中戦争や太平洋戦争で犠牲になった、戦没学生たちの手記や手紙がまとめられています。

1949年に刊行されて以来、これまで無数の読者の心をとらえ続けてきた本書を読むと、戦争に対する捉え方はもちろん、想像を超えた非日常を送った学生たちが何を考え、何を思ったのかが切実に伝わってきます。

戦争に対する関心や、戦争の悲惨さが薄れていると感じている方にとってはおすすめの一冊です。

わだつみのこえとは

本書タイトルである『きけ わだつみのこえ』は、一般公募で集まった約二千通の題名の中から決定されたといいます。

京都の藤谷多喜雄氏が応募されたもので、「はてしなきわだつみ」という題名のほかに、自作の短歌「なげけるか いかれるか はたもだせるか きけはてしなきわだつみのこえ」が添えられていたそうです。

日本に現存する最古の歌集『万葉集』には「綿津見」と表記され、海の神や海そのものを意味しています。

和歌の世界では、海そのものを雅に、あるいは婉曲的に表現するときに「わだつみ」を使用しているといいます。

藤谷氏や編集会がこの言葉を選んだのは、生命の源であり、穏やかにも激しくもなりながらも全てを包み込む海に、戦没学生たちの残した思いが込められていると感じたからでしょう。

本書の構成

日中戦争から始まり、アジア・太平洋戦争、敗戦後と三部からなる作品です。

戦地に散った74人の学生による手記や手紙が時系列に収められています。

当時の日本では、熱狂的な軍国主義が浸透し、多くの若者が喜び勇んで戦地に赴いたというイメージを持っていました。

しかし、本書を読むとそれが必ずしも正しいわけではなく、狂気に湧く風潮の中でも、一部の学生は自らの信念に従い、平和を願い、学問に勤しみたいという健気な願望を持って生きていたことがわかります。

学生たちが大切にしていた手記には、日本のあり方や社会が目指すべき方向、自らの願いなど、切実な気持ちが率直に書き表されています。

学生たちが送った手紙

本書には学生たちが手元に残していた手記だけではなく、家族や友人、恋人に送った手紙も収録されています。

検閲のために自分の思想をはっきりと表現できない状況の中で、自分の思いを抽象的な言葉で隠している部分も多く見られます。

しかし、丁寧に文章を追っていくと、行間から彼らの本心が滲み出る箇所が散見されます。

自分が思っていることを表現できないというもどかしさが伝わってきて、ときおり読む手を止めては、彼らの心情に思いを馳せました。

当時の学生たちの楽しみ

高校や大学を卒業した学生が、兵隊としての訓練を受ける過程で、感受性や創作意欲といった人間としての尊厳が失われていく様子が読み取れます。

現代のように、電気や水道、ガスをはじめとする基本的なインフラが整備されていなかっただけではなく、インターネットやYouTube、SNSもない時代でした。

本書に登場する学生たちは読書や詩、絵を描くことを楽しみとしていたようです。

当時の軍国主義の下では、自由主義を信奉するような表現を禁止されており、表現豊かな文学作品や思索の深い哲学書を読む機会は与えられませんでした。

そんな中でも学生の何人かは、消灯前の短い時間にトイレに駆け込んでは、暗がりの中で禁止されている書物を1ページ読んでは食べていたといいます。

教官に見つからないような配慮とはいえ、あまりに凄まじい光景を想像するとともに、「これが日本で行われていたことなのか」と気づいて絶句しました。

どんな社会も数多の問題を抱えていますが、平和を希求し維持することは、豊かな人生を送る大前提なのだと改めて思い知りました。

おわりに

今回は、日本戦没学生記念館編『きけ わだつみのこえ』をご紹介しました。

戦争についての知識や当時の社会情勢を考察している書物は数多くありますが、戦争の悲惨さを、前途は明るい学生がどのように考え、何を思い、どう生きたかったのかが胸に迫ってきます。

社会の仕組みを整えることで、戦争を防ぐという考えも大切です。

しかし、一人ひとりが当時の未来ある若者の望んでいたことを知り、自分を含めた社会がどうあって欲しいのかを考えることも切実な課題ではないでしょうか。

生きたくても戦地に行かざるを得なかった当時の学生たち。

彼らの手記や手紙を読むことで、自分はこれからの人生をどう送りたいのかを立ち止まって考える良い機会ともなりました。

膨大な初期や手紙を1冊の本にまとめ上げた編集者の方々や、戦没学生たちの意向を提供して下さった遺族の方への感謝の気持ちも湧き上がりました。

戦後70年以上が経過しましたが、毎年8月が来るたびに、原爆の日や終戦記念日に対する関心が低下していました。

そんな中で本書を手に取りましたが、戦没学生たちの手記や手紙を読むと、テレビのドキュメンタリー番組よりも圧倒的に記憶に残ります。

どんな世代の方にも読んでいただきたい1冊です。

ぜひ読んでみてください。

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