こんにちは、アマチュア読者です!
今回ご紹介するのは、ヨハン・ホイジンガ(Johan Huizinga)の『中世の秋』です。
歴史家である著者が、中世という時代に生きた人々の生活や考え方について書きつづったのが本書です。
年代記家や官僚がまとめた記録文書だけでなく、詩や小説といった文学作品、絵画や彫刻などの芸術作品をとおして、中世という時代における文化の歴史が考察されています。
中世というと、「なんだか難しそうでよくわからない」「暗黒のイメージがあるけど具体的にどんな時代だったのだろう?」という方が多いかもしれません。
本書を読むと、その曖昧模糊(あいまいもこ)とした中世が鮮やかによみがえってきます。
「中世とはどのような時代だったのだろう?」という関心のある方にはおすすめです。
中世が終わるとルネサンスがやってきます。中世とルネサンスは時代的につながっていて、中世がどのような終末をむかえたのかという視点で本書は書かれています。「ルネサンスには興味がある」という方にも読んでいただきたいです。
ヨハン・ホイジンガ
著者のヨハン・ホイジンガは、1872年にオランダ北部のフロニンヘンに生まれました。
フロニンヘン大学生理学教授デルク・ホイジンガを父に持ち、1891年にフロニンヘン大学文学・哲学部ネーデルラント文学科で学びました。
ホイジンガは大学卒業後、市民学校や大学で歴史を教え、王立科学アカデミー会長や国際連盟の委員を歴任しています。ヨーロッパを中心に各地で講演し、歴史に関する深い洞察は人々に大きな影響を与えました。ホイジンガは第一次世界大戦、第二次世界大戦のどちらも経験しています。
本書『中世の秋』は1919年に出版されました。第一次世界大戦の翌年で、ホイジンガが47歳のときのことです。
その歴史観にたいする反響は大きく、1937年までにはオランダはもちろん、ドイツ、イギリス、スウェーデン、スペイン、フランス、イタリア、ノルウェー、ハンガリー、チェコスロヴァキアの各国語に翻訳されました。
ホイジンガが求めたのは歴史叙述のわかりやすさと読みやすさでした。
彼は、これこそが歴史家に課せられた不可避の制約と考えていたのです。
堅苦しい文体を避け、平易な文章を心掛けていたことは本書を読むとわかります。
もちろん、オランダ語から直接日本語に翻訳した堀越孝一氏が果たした役割も計り知れません。本書の翻訳には2年の歳月を要しています。
『中世の秋』の特徴
本書では14世紀、15世紀のヨーロッパをルネサンスの準備期間とみなすのではなく、中世の終末とみようと試みています。
ルネサンスという時代が華やかに見えるため、焦点があたりにくい中世ですが、人間が生老病死を経験するのと同様に、中世という時代にも終わりがあるのだという考えのもと、人々の生活と思考の諸形態がまとめられています。
歴史というと、公式な記録文書(日本でいえば『日本書紀』など)や考古学的遺物から時代を読み解くイメージがあると思います。
たとえば、本書では当時の年代記家の残した資料をもとに、キリスト教を布教する巡回説教師の話がとりあげられています。
巡回説教師たちの雄弁は民衆の心を動かしました。インターネットやテレビ、新聞などのメディアから情報を得ているわたしたちにとって、情報源がなくなったら途方に暮れてしまうでしょう。
いつも何かに飢えていた人々にとって、説教師たちの熱烈な言葉がどれだけ強く働きかけたかは本書に書かれています。
それだけでなく、人気を集めた説教師が国外へ去ったときに何が起こったのかを読むと、この時代の人々がもっていた感情の激しさや涙もろさ、心変わりの早さも伝わってきます。
本書ではそういったものだけではなく、詩や小説などの文学作品、絵画や彫刻をはじめとする芸術作品も考察の対象になっています。
ホイジンガは、文書資料のみに頼ると、民衆に生命を吹き込んだ激しい情熱が欠けてしまうと考えていました。
中世に生きた人々が持っていた喜怒哀楽の感情に根を張っていた理想の生き方や功名心、妬み、復讐欲は、多少の誇張はあるにせよ、その当時の文学作品におさめられています。
芸術も人々の生活の中に溶け込んでいました。中世では芸術のための芸術愛好というものはまだ芽生えていませんでした。絵画や彫刻、装飾品などの造詣美術をはじめとして、生活における輝きを高めてくれるものが人々から求められていたのです。
本書には、中世の人々がどのような文学や芸術に夢中になっていたのかも考察されていて、現代の嗜好と大きく異なっていることがわかります。読んでいておもしろかったです。
ホイジンガは書きはじめたころ、彼が関心を持っていたファン・アイクという芸術家とその弟子たちの芸術をよりよく理解したいと思い、時代の生活全体と関連づけてブルゴーニュ社会をとらえようとしていたようです。
しかし、書き進めるうちに考察の範囲が広がっていき、おもにフランスとネーデルラントが対象になったといいます。ビジネスでよくいわれるような、目的を絶対視する考え方では本書は生まれなかったかもしれません。
おわりに
今回はホイジンガ『中世の秋』をご紹介しました。
上巻、下巻があるのでボリュームはありますが、読んでみて、「中世ってこんな時代だったのか!」と目から鱗が落ちました。14世紀から15世紀にかけての中世における文化の歴史が、数多くの多様な資料をもとに、歴史家ホイジンガによって平易な文章で書かれているので読みやすかったです。
わたしの場合、中世というと、どうしてもルネサンスの陰に隠れて印象が薄かったのですが、本書を読んで、その時代に生きた人たちの関心や生活スタイルを垣間見ることができました。
中世ヨーロッパに興味がある方は、ぜひ本書を読んでみてください!
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