こんにちは、アマチュア読者です!
今回ご紹介するのは、仁藤敦史『藤原仲麻呂 古代王権を動かした異能の政治家』です。
藤原仲麻呂(ふじわらのなかまろ)は奈良時代中期に活躍した貴族政治家です。律令編纂に功績があった藤原不比等(ふひと)は祖父、大化の改新で活躍した藤原鎌足(中臣鎌足)は曾祖父にあたります。
幼少期から頭脳明晰だった彼は、臣下としては最高位の太政大臣に到達します。しかしその後は一転、逆賊とみなされ(藤原仲麻呂の乱)、琵琶湖畔で斬首されることになります。
こういった経歴を読むと、「野心が強すぎて人間関係が悪くなったんだろう」「因果応報だ」という気持ちを抱くかもしれません。
しかし本書を読むと、藤原仲麻呂を短絡的に悪者扱いすることを踏みとどまる視点が見えてきます。彼の残した業績は、その後の時代の政策に大きな影響を与えているのです。
また、藤原氏というブランドは、仲麻呂が鎌足・不比等ら藤原氏の始祖たちを褒め称えるさまざまな政策によってその価値が向上しました。
全体を通して、自分の知っている歴史の知識と本書の内容がリンクして、奈良時代の理解が深まりました。わたしは中公文庫から出版されている『日本の歴史』を通読したことがありますが、仲麻呂の仇敵となった孝謙上皇や怪僧道鏡の記憶は強烈に残っていたものの、藤原仲麻呂についての知見は乏しかったです。
本書を読んで、サブタイトルにあるとおりの「異能の政治家」である仲麻呂の生涯や彼が残した業績にふれることができ、楽しい読書の時間をすごせました。
仲麻呂が数字に強く、算術や暦を重用していたことは強調しておきたいです。仕事においては数字・ファクト・ロジックが重要だといわれますが、奈良時代の政治においても数字に強い政治家は一目置かれたのでしょう。
当時は現代のように科学が発達しておらず、自然災害や疫病に対して加持祈祷や占いに頼る世の中だったことを考えると、リアリストの傾向が強かったことは間違いなさそうです。
彼が急転直下、孝謙上皇に刃向かう逆賊とされたのは、藤原氏を准皇族に格上げするにとどまらず、皇族に登りつめようとしているとみなされたことが大きいでしょう。まわりの臣下をイエスマンで固めたことで敵対勢力を増やしたことも一因だと思われます。
当時の一次資料からわかることには限界があるかもしれませんが、歴史は時代が下るにしたがって、少しずつ事実に近づいていくものだと考えるとロマンがありますよね。
本書のように、すでに歴史的な人物像が定まったと思われる藤原仲麻呂を新たな視点で捉えようとすることは、日本の歴史観を変えることにもつながる素晴らしい試みだと思います。
正史である『続日本紀』は、藤原仲麻呂が後ろ盾した淳仁天皇を一貫して「淡路廃帝」と記載していている一方で、孝謙天皇は上皇の期間を含めて「高野(たかの)天皇」という称号を用いて、淳仁天皇の治世も在位が続いているような書きぶりがされています。勝者の歴史と言われるとおり、その当時を勝ち抜いた人々によって歴史は作られていきます。
しかし、正式な資料だと思われているものも、関連資料とともに丁寧に読み解くことで事実が浮かび上がってくることがあります。本書を読んで、正史と事実は必ずしも一致しないということを改めて感じました。
歴史は決まりきった暗記物だという先入観がくつがえり、はるか昔に起こった出来事が現代にも繋がっているのだという実感を伴った経験をすると、「歴史ってこんなにおもしろいんだ!」と思えるようになります。
藤原仲麻呂について知っている方も、わたしのようにあまり馴染みのない方も、読んで良かったと思える一冊だと思います。ぜひ読んでみてください。
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