こんにちは、アマチュア読者です!
今回は12年間にわたって明石市長を務めた泉房穂(いずみふさほ)のおすすめ書籍をご紹介します。
著者は明石市長として特に子どもに焦点を当てた政策を徹底し、人口、出生率、税収が増え、明石のまちを全国から注目されるほど発展させ、「住みたい町ランキング」でも明石市を急上昇させました。
政党にも業界団体にも頼らず、市民だけを味方にして選挙を勝ち抜き、忖度なしで市の経営に邁進して結果を出す姿は明石市民に限らず、政治に関心がない人々にも大きな影響を与えています。
著者は代々タコ漁師の家庭の子どもとして明石に生まれ、経済的に裕福ではない状況で苦学して独学の末、現役で東京大学に進学します。
大学では経済と教育哲学を学び、特にジャン=ジャック・ルソーの思想に傾倒したといいます。
学生運動のリーダーとして寮費値上げに反対するストライキなどを主導して活動した後、NHKやテレビ朝日に勤め、著者が師匠と仰ぐ石井紘基氏のもとで秘書として選挙活動をおこないます。
その後、石井氏の勧めで弁護士を目指して勉強し、司法試験に合格します。
地元明石で事務所を開いて弁護士として活躍すると、今度は国会議員として犯罪被害者の支援に関する法律などを担当し、恩師の仕事を引き継ぐのです。
その後、満を持して明石市長に無所属で立候補し、市民の圧倒的な支持のもと当選を果たします。
明石市長として市民の視点に立った数々の改革を実行し、市長退任後は、講演やメディア出演、取材や選挙応援にひっぱりだこの著者ですが、非常に濃いキャラクターで、情熱あふれる切れ味鋭いマシンガントークは聞く者の心を鷲掴みにします。
「やさしい社会にしたい」という情熱は、今回ご紹介する作品にも込められており、政治的無関心に陥っている読者も日本社会に希望を見出せるメッセージが満載です!
『子どものまちのつくり方』
定住人口、出生率、税収が増え、明石市は著者が市長になって以来V字回復を果たしました。
本書を読むとわかるとおり、著者は地政学的見地や時代はもちろん、社会情勢に応じて明石を多角的な観点から捉えています。
著者には「学ぶ」「働く」は市外に任せ、「暮らすのは明石」で、という確固としたコンセプトがありました。
大学や企業を誘致するために、明石が大きく投資をして無理を重ねたところで、大阪や神戸などの周辺都市よりも抜きん出るのは容易ではありません。
それよりも明石は「暮らす」に重点を置きました。
コンパクトで交通利便性の高い中核都市の強みを生かし、思い切って暮らしやすさに特化した自治体経営にシフトしたのです。
ターゲットも明確で、結婚して1人目の子供が生まれ、2人目の子を考えている方たちに、「明石なら、2人目も可能ですよ」「子育てするなら、明石はいかがですか」とアプローチをかけているのです。
「魅力のある施策であれば、当然来てくれる」という読みにもとづいて、明石の地理的な強みを意識した明確な施策展開をしています。
国を待つことなく、時代や市民のニーズがあれば明石は率先して始めているところにも凄さを感じます。
全国初の取り組みも多く、そこに支援が必要な市民がいるから、現場のニーズを身近に把握できる基礎自治体の立場で、当たり前のことを速やかに実施してきただけだと著者は言います。
本書では、思い切った施策展開を可能にした明石市の自治体経営のポイントを「市民とのビジョンの共有」「時代に応じた予算のシフト」「適時、適材、適所の組織人事配置」「広報戦略」の4つに分けて説明しており、経営に従事する方にとっても得るものは多いはずです。
著者は明石の経営理念を絵に描いた餅にすることなく、わかりやすいメッセージ「こどもを核としたまちづくり」「やさしい社会を明石から」として主張し続けてきたといいます。
それを市民に的確に発信し、議会にも逃げることなく大義を掲げて問い、まち全体の機運と理解を広げることで市民の共通認識につなげていく行動力の凄さにも圧倒されます。
本書を読んでいると、著者が弁護士時代に関わったさまざまな児童問題を解決したいと言う気持ちが明石市の政策につながっていると感じます。
ネグレクトや虐待を受けて心の傷ついた子どもや、離婚のときに声を聞いてくれる人が誰もいない状況に置かれた子どもが、どのように育っていくのかというところまで視野を広げてたフォローが必要だと腹落ちしたからこそ、子どもを中心に据えた政策がぶれないのでしょう。
また、明石を「本のまち」にしたいという強い思いを抱いてきた著者は、明石駅前のビルに図書館を設立し、その下の階には大型書店を誘致することで、その印象を一気に変えました。
子供の頃から読書が大好きだった著者の本に対する熱い思いは、次の言葉だけからも伝わってきます。
本は単なる紙の集合体ではありません。本を通して遠い昔の人とつながり、国を越えて様々な人と出会い、未来を創造することができるのです。
他人の痛みや悲しみを知るのは難しいことですが、想像力の架け橋で、ある程度理解し、近づくことができると信じています。
他人の気持ちに共感できる豊かな心の架け橋を築いてくれるのが、私にとっての「本」なのです。
著者の好きな言葉についても言及があります。
チャップリンの「ライムライト」の中のセリフ、「人生に必要なのは、勇気と、想像力と、ほんの少しのお金」をもじった「必要なのは、やさしさと賢さと、ほんの少しの強さ」です。
この言葉に込められた意味は深く、本書を丁寧に読むと腹落ちします!
『子どもが増えた!』
本書は著者と、ホームレス支援や生活困窮者支援に従事する湯浅誠氏がメインパーソナリティーとして、自治体関係者や元官僚、研究者などを迎え、兵庫県明石市を多面的に分析した作品です。
鼎談相手は、地域エコノミストの藻谷浩介氏、元厚生労働事務次官の村木厚子氏、持続可能な地域社会総合研究所の藤山浩氏、三鷹市長の清原慶子氏、元三重県知事の北川正恭氏、そして東京海洋大学名誉教授でバラエティー番組でも活躍するさかなクンの6名です。
本書が出版される直前には、著者が明石市職員に暴言を吐いていたと言う報道がされ、出版が危ぶまれましたが、湯浅氏が事の経緯と報道に対する率直な気持ちを冒頭に書くことで世に出されました。
本書に限ったことではありませんが、「これだけいいことを言いながら、あんな暴言を吐いて信用できない」と考えるか、「発言は許せないけど、こんな一面もあるんだ」と捉えるかは読者に委ねられます。
著者が市長に就任したときの明石市は毎年人口が減って、子どもの数も減り続け、ずっと赤字経営だったといいます。
その中で、著者は明石のプラスとマイナスを考え戦略を立てました。
プラスは雇用政策をしなくても大阪や神戸の通勤圏内にある明石に住めるところと、地価が芦屋や西宮、神戸の東灘よりも安いところ。
後者については、2人目の子どもを産みたい親からすると、もう一つ勉強部屋が欲しいけれど、芦屋だと1部屋のところ、明石だったらもう1部屋つくれるという風にプラスに働きます。
この考えは、著者が市長になる前に国会議員だったとき、フランスの少子化対策を勉強した際に生まれたといいます。
フランスでは、子どもを3人産んだら公共交通機関や公共施設が家族全員割引になるとか、配偶者の子でなくても産んだら老後の年金がもらえるとか、そういうインセンティブが働いています。
もう1つのプラスは、安定的で持続可能なまちづくりをするためには納税者や支え手を増やす必要があるということです。
したがってインセンティブが働く施策を打つ、そして中間層をゲットする、この2つが戦略だと著者は語ります。
それだけでなく、著者が差別や貧困のある世界に憤りを感じて10歳のときに決意した「ふるさと明石をやさしい街に変えてみせる」という夢を実現するために、高齢者や障害を持った方にも配慮の行き届いた政策を実行しているところに説得力を超えた凄みを感じます。
今や、高齢、障害、子供と、マイノリティと言われる人たちの数を足し上げていったら、数としてはマジョリティになります。
マジョリティを取り込んだ方が消費を拡大するのは、ある意味当たり前のことだという考えは印象的です。
震災が典型的ですが、困ったときというのはいつ誰にやって来るかわかりません。
そのときに地域で支え合うのが「やさしい社会」であり、困っている特別な人がいて、その人をみんなで何とかする話ではなく、自分自身が困ったときに対応してもらえる状態を自分たちでつくる。
「我が事として捉えていくのが本来の政治なんだ」と思わされる言葉に目を開かされます。
また本書で湯浅氏が語っている対話(ダイアログ)と会話(カンバセーション)の違いは、コミュニケーションについて深く考える際に非常に役立つ内容です!
『社会の変え方』
本書は著者の自伝ともいえる作品です。
瀬戸内海に面した漁師町に生まれた著者が自らの生い立ちを包み隠すことなく語り、子どもの頃に「冷たい社会を変える」決意をし、政治家として東奔西走しながら明石のまちをやさしいまちへ変えていった経緯が丁寧に描かれています。
著者は明石市長として、前例主義や横並び意識に勝負を挑みつづけました。
孤立無援ともいえる状況の中でも、自分だけは自分を評価することができ、真面目に仕事をしたことを自分がわかっていればそれでいいと思い続けたといいます。
市民から遠いところで生きている人たちから距離を置き、「市民のため」になすべきことを決断し、まわりに流されず腹をくくって有言実行して積み重ねた実績は、本書のさまざまな箇所で目にすることができます。
未曽有のコロナ禍で困っている市民の声を聞き、市民のニーズに沿って猛烈なスピードで方針決定し、法律や制度を躊躇せずに変えていった話からは、その姿を想像して感動すら覚えます。
障害のある弟を持つ家族として経験した社会の冷たさを変えるには、まず政治を変えなければならず、本当に市民の方を向いて市民に寄り添った政治をする人を選べば、社会は変わっていくことができると著者は信じています。
有権者が選挙に行ってそういった候補者に投票することをしなければ、一人ひとりの声さえ政治に届くことはなく、社会は変わらないという主張はさまざまな出版物にあふれています。
しかし、本書における著者の言葉には凄まじい熱意がこもっており、政治に参加するために行動してみようという気持ちにさせられます!
著者の政治に対する考えを深く知りたいと思っていらっしゃる方には、本書を特におすすめします!
『少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?』
日本で少子化問題の議論が始まったのは1980年代で、その頃から少子化による人口減少が懸念されていたにもかかわらず、政府は歯止めをかける対策を実行してきませんでした。
その理由は、少子化や子育てに力を入れると宣言すると、高齢化社会の日本では選挙で票を集められないから。
そして子育て政策に注力しても利権に絡めず、美味しい思いができないから。
こういった刺激的な話で始まる本書は、著者と「論破」で有名なひろゆき氏による対談本です。
少子化対策や子ども政策について、お二人の歯に衣着せぬ本音トークが炸裂し続ける内容で、ひろゆき氏が生活しているフランスの子ども政策の話題も交えて話が進んでいきます。
ぶっちゃけ話が多いため、他の作品では扱っていないような裏話も飛び出し、驚いたら笑ったりしながら最後まで飽きることなく読み通せます。
著者の明石市長としての実績で印象的なのは子育て政策ですが、本書を読むとその裏には子供だけでなく、高齢者や障害を持った方にも優しい街づくりを意識した丁寧なルールが敷かれていることに気づかされます。
数々の改革を決断し、実行してきた著者が市長として「人事権と予算編成権の行使」という、人とお金に関する権限を持つことの重要性を語る場面もあり、読み終わる頃には想像以上に多くのことを学べる作品です!
『政治はケンカだ』
本書では、著者が市長として過ごした12年間を、聞き手の鮫島浩氏に本音で語っています。
タイトルの「政治はケンカだ」という言葉は刺激が強いですが、内容はそのフレーズに負けないほどのメッセージにあふれています。
著者の作品は数多く出版されていますが、おそらく本書は一二を争うほどのぶっちゃけ話が満載です。
著者の故郷の歴史にはじまり、より具体的な以下の各論で話が展開されていきます。
・第二章 議会論
・第三章 政党論
・第四章 役所論
・第五章 宗教・業界団体論
・第六章 マスコミ論
・第七章 リーダーシップ論
綺麗ごとを並べたところでそれは政治ではない。
政治は結果であり、政治というものは市民や国民に結果をもたらすものである。
そのためには勝たなければならず、選挙は勝ってその立場に立ち、掲げた政策をやり切り、市民や国民を笑顔にしてこそ政治家である。
本書ではこういった著者の政治哲学が包み隠さず語られています。
聞き手の鮫島浩氏は朝日新聞に長く勤めた経験から、著者も驚くほどの見解を披露し、対談が盛り上がる様子が読者にも伝わってきます。
特に「第六章 マスコミ論」では、新聞はなぜ思い込みで書くのかというテーマについて、鮫島氏の知る大手新聞社の実態やジャーナリストとしてのあるべき姿が熱く語られ、著者が「同感!感動的に同感!」とうなずく場面もあり、読んでいて非常におもしろいです。
オブラートに包まれない生の政治に近づきたい方にはおすすめです!
『日本が滅びる前に』
本書では、著者が12年のあいだ明石市長として打ち出してきた数々の施策を交えながら、明石市が抱える課題をいかに見つけ出し、解決策を練り、実行してきたのかが紐解かれています。
5つの子育て支援施策を「所得制限なし」の無料化にしたことで、明石市は全国的に有名になりました。
具体的には以下の内容です。
②保育料の完全無料化(第2子以降)
③おむつ定期便(毎月おむつや子育て用品が家庭に届く)
④中学校の給食費が無償
⑤公共施設の入場料無料
しかし改革を進めるにあたって、予算配分に反対する議会、それによって不利益を被る特定業界の既得権益者からの反発は凄まじいものがあったといいます。
子育て支援施策の結果が出始めるまでは、「お上意識(国からの指示ではないからやらない)」「前例主義(過去のとおりやるのが一番)」「横並び意識(他ではやっていないからやらない)」に馴染んでいた市役所の職員たちの反発も相当なものがあったそうです。
強靭なメンタルで空気を読まずに闘える印象の著者ですが、こうした四面楚歌の状況や反対勢力の強さに心が折れそうになったことが幾度もあったといいます。
そんなときに後ろから支えてくれたのは多くの市民であり、その後押しのおかげもあって、著者は全国初となる条例を在任12年間で10以上つくりました。
本書では、そういった市民の心強い応援があって実現できた「所得制限なし」の5つの無料化をはじめとするいくつかの施策を著者の視点で振り返ります。
そして各施策が生まれた背景や潜んでいた課題、問題点、解決手法といったものが、他の自治体にも通じる普遍性を持つものであることが著者によって力説されています。
本書の中で、著者が影響を受けた人物についても言及があります。
「子ども」という概念を発見したフランスの思想家ルソー、近代官僚制を本格的に研究し「最良の官僚は最悪の政治家である」と述べたドイツの社会学者マックス・ウェーバー。
国民のための政治を実現させようと本気で行動した恩師・石井紘基氏、ノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサ、フランスの第18代大統領であるシャルル・ド・ゴール。
ネットニュースやSNSだけ見ていると著者の思想のバックグラウンドはなかなか見えませんが、本書を読むと著者がグローバルな視点で、政治に関する勉強を絶えず続けてきたことがわかります。
おすすめです!
『「豊かな日本」はこう作れ!』
著者と京都大学大学院教授の藤井聡氏が、日本社会の抱える政治的課題を議論し、その解決策を探る対談形式の作品です。
お二人とも、SNSで数十万人のフォロワーを抱えるインフルエンサーです。
著者は子育て支援や地域振興、福祉を中心に市民の方を向いて数々の政策を立案し、実行してきました。
藤井氏は、経済学者として公共政策やインフラ投資の重要性を訴え続け、反緊縮の立場から持続可能な経済発展に向けた政策提案を首相官邸におこなってきたことで知られています。
立場はそれぞれ異なるものの、豊かな日本を実現するために必要な政治的な視点や問題意識は共通していることが本書からうかがえます。
著者の地域振興券を利用した政策に対して、藤井氏の「まちづくりには、経済的にお金のキャッシュフローがその地域に滞留するパーセンテージが大切だ」という経済学者の立場からの見解が一致していることはその一例といえます。
抽象的な議論ではなく、著者が実行してきた具体的な政策を軸とする建設的な議論が展開されているところに、政治的な希望が感じられます。
本書の後半では、政治を主体的に実行する政治家としての資質が議論されています。
著者は「優しさと賢さと少しの強さ」、藤井氏は「知・情・意」と表現しており、本質的には同じである考えに普遍性を感じます。
賢さだけでも、愛だけでも、勇気だけでもダメなのだということがよく理解できるテーマで、読者が刺激を受けること間違いなしです!
『10代からの政治塾』
本書『10代からの政治塾』は著者の政治家としての経験をもとに、「政治とは何か」について熱く語られています。
内閣のしくみや憲法改正といった学校の授業のような内容ではなく、根本にある「政治とは、生きることそのものである」というメッセージが伝わってくる作品です。
人はひとりでは生きられない生きものであり、複数の人間で社会を構成し、ルールを作り、社会がうまく回るように運用していくのが政治であると著者は語ります。
若い人に向けて語りかける文体で、著者のかみ砕いたシンプルな言葉で説かれる著者の政治観は、他の著作と比較しても読みやすく、有権者として政治に参加するモチベーションが上がる魂のこもった言葉が盛りだくさんです。
そもそも政治とは何かという話だけでなく、法律が作られるプロセス、税金と社会保険料の違い、財務省と厚労省の関係、本物の気持ちで「語る言葉」を持つことの重要性といった興味の湧くトピックが、著者自身の体験談を交えて語られていて頭に入ってきやすいです。
本書の最後には、人生で忘れてはいけない「3つの発想の転換」として、①「上から」という考え方からの転換、②「一律」という考え方からの転換、③「これまで通り」からの転換について著者の考えが書かれています。
「先生の言うことだから妄信する」「いつまでもみんなと一緒でいい」「いままでと同じやり方でいい」、こういった考え方からの脱却がこれからの人生を豊かにするという著者のメッセージには、特に若い人に対して自分の頭で考えることの価値を大切にしてほしいという思いが込められています。
10代の方はもちろん、選挙権を持つすべての年代の方に一読いただきたい作品です!
おわりに
今回は、元明石市長 泉房穂のおすすめ書籍をご紹介しました。
明石市を活性化させた政治手腕はもちろん、政治家が変われば政治が変わるという模範を示した著者の言葉は、政治に興味のない方にも関心を持つきっかけになります。
バイタリティー溢れる名言もたくさん記されています。
この機会にぜひ読んでみてください!
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