【おもしろさ倍増】山本博文 『歴史をつかむ技法』新潮新書

歴史

歴史を単なる暗記物と考えずに、広く深く考える教養とみなせば興味を持つ人は増えるのではないだろうか。

試験で苦労して覚える歴史用語の多くは、その時代に使われていた言葉ではなく、後世の歴史研究において事実認識を深めるために作り出されたものである。

「幕府」や「鎖国」、「律令国家」といった言葉はその一例である。

著者が主張するように、用語の最大の目的は、用語が作り出す概念を共有して歴史への理解を深めることにあるのだ。

過去の歴史的時代には、それぞれ特有の時代の観念がある。

たとえば「忠臣蔵」のモデルとなった赤穂事件では、「喧嘩両成敗」が武士社会の常識となっていたことを知らないと事件の本質を理解できない。

主君の浅野内匠頭が江戸城中で高家筆頭の吉良上野介に斬りかかることで始まるこの事件は、ドラマで何度も放送されているのでご存じの方も多いであろう。

殿中で刀を抜くことは禁じられているので、内匠頭が切腹を幕府から命じられるのは止むを得ない。

しかし、これを喧嘩だとみなすと喧嘩両成敗という天下の大法が守られないことになり、内匠頭の家臣たちは幕府が吉良に何の処分も下さないことを「片手落ち」だと考える。

そしてそれを放置すると、赤穂藩士全体の恥となってしまう。

この考えにしたがえば、1年半後に赤穂浪士たちによる吉良邸討ち入りも不思議はない。

しかも大石内蔵助にいたっては、吉良が見つからない場合は息子を討ってもいいのではないかとまで言っている。

現代人には考えられないが、喧嘩両成敗を実現することによって旧赤穂藩士の面子を立てようとする意気込みは当時から見れば不思議ではないのだ。

こういった背景を理解したうえで歴史の本や時代小説を読めば、おもしろさが倍増することは間違いない。

時代区分についても腹落ちするところが多かった。

古墳時代に確立する「ヤマト政権」はカタカナで書かれるが、これは「大和」が八世紀後半に律令制によって成立する現在の奈良県にあたる地域の行政区分で、これと区別するためである。

畿内に成立したヤマト政権は、やがて日本を統一したと考えられているので、ヤマト政権の大王は、大和朝廷の天皇になり、現代の天皇家につながるということになる。

本書を読むと、歴史は難しいことを覚える勉強ではなく、過去の人間の行いを正しく理解することに近づく学問なのだと感じる。

過去を知れば未来をより良く生きるヒントも得られ、知れば知るほどおもしろくなっていくのだ。

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