こんにちは、アマチュア読者です!
今回はウィリアム・シェイクスピアのおすすめ名著をご紹介します。
ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare、1564~1616)は、イングランドのルネサンス期を代表する戯曲家・詩人として歴史に名を残す大人物です。
若い頃からロンドンで劇作家として活躍し、生涯に多くの戯曲やソネットを生み出しました。
特に戯曲は有名で、悲劇・喜劇・歴史劇に分類される彼の作品は、戯曲そのものはもちろん、世界中の舞台演劇において称賛されています。
シェイクスピアの著作に関心はあるものの、どの作品を読もうか悩んでいる方にとっては、読む順番を含めて本記事が参考になると思います。
ぜひ読んでみてください。
『ヘンリー六世』
征服王とも呼ばれたヘンリー五世は、フランス領も獲得して英国の権威を高めた為政者でしたが、彼の死後、葬儀が済まないうちにそのフランス領は喪失し、フランス軍にも攻め込まれる事態に陥ります。
ヘンリー五世の嫡男であるヘンリー六世が王位を継ぎますが、彼の属するランカスター家と、歴代の王位の系譜を根拠に権力を奪おうとするヨーク家のあいだで凄惨な「薔薇戦争」の火ぶたが切って落とされます。
シーソーゲームのように主導権が目まぐるしく変わる展開で、物語として飽きることなく読み進めることができるので、歴史が苦手な方でも十分に楽しめる作品です!
登場人物たちは権力を手中におさめるために、心の内に秘めることなく、露骨なまでに欲望にまみれた言葉の応酬が繰り広げられるところも本書の読みどころです。
ランカスター家とヨーク家が王位争いをめぐって勃発した薔薇戦争が扱われているので、複雑な内容ではあるものの、登場人物の心情が把握できるため、ストーリーを追いやすい構成になっています。
オルレアンの乙女、ジャンル・ダルクも登場しますが、その描き方も特徴があって記憶に残ること間違いなしです。
本書はイングランドで起こった薔薇戦争がメインテーマですが、読んでみて「この戦争は実際どのようなものだったのだろう?」「シェイクスピアの『ヘンリー六世』と実際の薔薇戦争を比較してみたい」と思った方には陶山昇平『薔薇戦争 イングランド絶対王政を生んだ骨肉の内乱』がおすすめです。
現代においても英国のメディアで、「二つの陣営のどちらの陣営につくかを迫られ、敗者は破滅の途を辿る」ような騒動を取り上げる際には薔薇戦争が引き合いに出されます。
この作品では、10年以上にわたって薔薇戦争に親しんできた著者が、この内乱の歴史的意義を一般読者向けにわかりやすく解説しています。
『ヘンリー六世』ではヘンリー五世が死去した場面から話が始まりますが、『薔薇戦争』ではこの前史からヘンリー七世の時代までが扱われています。
この期間は、後述するリチャード三世の時代も含まれているため、ネタバレなしで純粋に物語を楽しみたい方は、先に『リチャード三世』も読んでから『薔薇戦争』を読んでみてはいかがでしょうか。
『リチャード三世』
『ヘンリー六世』三部作の続編となる本作品は、エドワード四世の弟であるグロスター公リチャードがリチャード三世として王座に君臨し、その最期までが描かれています。
リチャードは王位に就くべく、過去の悪事を振り返ることなく手練手管を尽くし、周囲の権力者たちを言葉巧みにたぶらかしていきますが、そのさまは恐ろしいまでに人間の心理を突いているだけに圧倒されます。
王座を手中に収めることを目的に、その手段を問わない姿勢を想像すると「言葉は思想を隠す技術なのだな」と思わずにはいられません。
戯曲だとわかっていても、リチャードのような人物を現実世界に当てはめて、あれこれ考えてしまうほど脳裏にこびりついて離れないのが『リチャード三世』の凄さです!
シェイクスピアが描いたリチャード三世は、テューダ―朝(エリザベス一世)の時代背景の中で、「せむし」「醜悪な怪物」の表現に見られるように誇張され、悪の化身のように表現されています。
しかし、この表現は史実と異なることがはっきりわかる発見がありました。
2012年に英国中部の町レスターで、15世紀のイングランド国王リチャード三世の遺骨が発掘されました。
その後の調査によって、リチャード三世は実際に重度の側弯症を患っていたことが確認されたものの、手足の動きは正常で、馬に乗って戦場で戦えるほどの身体能力を持っていたといいます。
この発掘にはリチャード三世を敬愛する歴史マニアたちの活動が深く関わっていました。
その一部始終は『The Lost King』に描かれています。
『The Lost King』は映画もされ、2023年のボルダー国際映画祭で最優秀作品賞、同年のバルセロナ・サン・ジョルディ国際映画祭で最優秀脚本賞に輝いています。
シェイクスピアの『リチャード三世』は作品のおもしろさから、戯曲の内容を歴史的事実であるかのように受け取ってしまいがちですが、文学作品と史実の整合性はチェックしないといけないですね。
リチャード三世の遺骨発掘はその一例を示してくれます。
『間違いの喜劇』
シェイクスピア初期の喜劇の一つである『間違いの喜劇』は、目まぐるしく変わる人間関係と登場人物たちの軽快なやりとりが楽しめる作品です。
交易都市エフェソスに偶然集まった二組の双子の存在が、物語を大きく動かすキーポイントになります。
名前も容姿も瓜二つの兄弟たちは、それぞれ別の土地で育ちながらも運命に導かれるように同じ町に滞在することになります。
その結果、周囲の人々は互いを取り違え、次々に起こる誤解や騒動に巻き込まれていきます。
『間違いの喜劇』の魅力は、登場人物たちにとっては思いもかけないドタバタ劇のようなテンポの良さと、双子の取り違えによる勘違いがもたらすユーモアにあります。
シェイクスピアが後期に手掛けた作品にみられるような深い心理描写や哲学的な問いはまだ控えめですが、舞台設定のおもしろさや観客を笑わせる工夫が前面に押し出されています。
二組の双子が入れ替わることで複雑に進行する間違いの連鎖が、最終的に気持ち良く爽快に収束していき、安心感も得られます。
シェイクスピア喜劇の中でも特に短い130ページ程度の作品なので、初めてシェイクスピアに挑戦する方にもおすすめです!
『タイタス・アンドロニカス』
ローマの貴族でゴート討伐軍の将軍であるタイタス・アンドロニカス。
自ら剣をふるい、敵を押さえ込み、名誉と幸運を手にして凱旋した彼を待っていたのは、陰謀と復讐の渦巻くはかりごとの世界でした。
裏表のないタイタス・アンドロニカスは、身近にいる敵に言葉巧みに言いくるめられ、勝利者から悲劇の復讐者へと転じる破滅の途に進んでいきます。
古代ローマを舞台に展開される本作品は、思わず想像することを避けてしまうほどの残虐なシーンが多く登場します。
暴力や陵辱をためらわない数々の振る舞いは衝撃的で、一度読んだら忘れられないほどですが、ギリシア神話の有名な逸話をモチーフにしていると思われます。
アポロドーロス『ギリシア神話』やオウィディウス『変身物語』などの著作に同様の話が収められているので、興味のある方はギリシア神話のおすすめ名著を紹介しているこちらの記事も参考にしてみてください。

シェイクスピアも親しんだギリシア神話がわかると、戯曲も一段とおもしろく感じられます。
シェイクスピアは、四大悲劇を含む多くの戯曲を生み出してきましたが、『タイタス・アンドロニカス』の読後感は他の作品にはない強烈なインパクトがあります。
憎悪、復讐、狂気といったテーマは後の『ハムレット』や『マクベス』にも通ずるものがあり、登場人物たちの行動の荒々しさには恐怖を感じてしまいます。
シェイクスピアの悲劇にも様々なグラデーションがあるのだと思わされる一冊です。
この衝撃的な悲劇は映画化もされており、『羊たちの沈黙』で有名なアンソニー・ホプキンスがタイタス・アンドロニカスを演じています。
『じゃじゃ馬ならし』
本書『じゃじゃ馬ならし』は、結婚と男女関係をめぐる痛快な喜劇作品です。
イタリアの都市パドヴァで、気性が荒く毒舌で人を不快にさせる女性カタリーナ(キャタリーナ)と、彼女を妻に迎えようとするペトルーチオの駆け引きを中心に、登場人物たちの色恋沙汰が愉快に描かれています。
まわりの人々は、いったい誰がこの「じゃじゃ馬」を手なずけ、うまく付き合っていくことができるのか興味津々で見守り、ユーモラスで活気のある雰囲気で物語が進んでいきます。
登場人物たちの鋭い言葉の応酬や、言葉の力による主導権の入れ替わりが本作を魅力あるものにしています。
カタリーナの強い個性は、女性の既成概念を破壊する意志の強さを体現していますが、対するペトルーチオの奔放さと毒を以て毒を制すふるまいは物語を一層おもしろくしています。
男女の力関係や結婚観が喜劇の形で描かれる一方で、現代の視点で読むと社会的な議論を呼ぶテーマでもあります。
『じゃじゃ馬ならし』は、喜劇的なおもしろさを味わうだけでなく、結婚や夫婦関係、恋愛観を考えるきっかけにもなる作品です。
舞台上演も多く、映画化もされています。
『リチャード二世』
先述の『ヘンリー六世』『リチャード三世』の時代から遡り、ランカスター公のジョン・オブ・ゴーントの息子であるヘンリー・ボリングブルックがヘンリー四世として即位するまでが描かれています。
そこで王位を簒奪されるのがリチャード二世です。
ノーフォーク公トマス・モーブレーとの決闘をリチャード二世にとめられたボリングブルックは、六年のあいだ、故郷イングランドの地に足を踏み入れてはならないと命令されます。
アイルランド征討に向けて出発したリチャード二世の動向を見計らって、イングランドに上陸したボリングブルックは、やすやすとイングランドを平定してしまいます。
寵臣たちが次々にボリングブルックのもとに集い、リチャード二世は孤立し窮地に立たされます。
追放の身に処したボリングブルックにひれ伏し、王位を譲り渡すリチャード二世のふるまいは、本書の読みどころの一つです。
王座を明け渡すことに対する絶望、悲嘆のあまり威厳を失い狂気じみたセリフ、統一を欠いた感情が最期には怒りへと変貌を遂げる過程からは、リチャード二世の人間臭さが感じられます。
歴史的には、ボリングブルックがヘンリー四世として王座を手にすることによって、ヘンリー六世やリチャード三世が生まれ、ランカスター家とヨーク家の薔薇戦争も勃発しました。
シェイクスピアが生きた時代は、テューダー朝によってイングランドが再生と秩序をもたらした「テューダー朝神話」というエリザベス朝の歴史観が支配的でした。
『リチャード二世』もこの観念が色濃く反映されていると思われますが、現代の読者がこの作品をどのように読み解くかは自由です。
背景を理解したうえで読んでも、シンプルに本書の世界に親しんでも楽しい時間を過ごせます。
おわりに
今回はウィリアム・シェイクスピアのおすすめ名著をご紹介しました。
16~17世紀に活躍したシェイクスピアが、人間に対する深い洞察から生み出した数々の傑作を読むと、まるで現代を暗示しているのではないかと思うほどの新鮮さがあり、同時に人間の持つ喜怒哀楽の普遍性を感じずにはいられません。
この機会に、シェイクスピアの名作をぜひ読んでみてください!
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