こんにちは、アマチュア読者です!
今回は、ハインリヒ・シュリーマンのおすすめ名著をご紹介します。
ハインリヒ・シュリーマン(Heinrich Schliemann 1822-1890)は19世紀に活躍したドイツの実業家であり、考古学者です。
シュリーマンの特筆すべき業績として、古代都市トロイアの発掘が挙げられます。
古代ギリシャの伝説的な吟遊詩人ホメロスが叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』で歌っていたトロイアの世界は実在すると信じ、驚異的な行動力によって自ら発掘調査をおこない、トロイア遺跡を発見したのです。
普通の人であれば、文学の世界と現実世界は別物で、作品を楽しむことに終始するものですが、シュリーマンは「トロイアの都は実在するはずだ」という強烈な信念を持ち、その猪突猛進な姿勢はドン・キホーテを思わせます。
貧しい家庭に生まれながら商人として経済的に成功し、巨万の富を手に入れたキャリアが頭から追いやられるほど、考古学的に劇的な発見をしたシュリーマン。
その発掘方法には批判されるべき点があるものの、彼が書き残した作品からは、その波乱万丈の人生が窺われます。
『古代への情熱 シュリーマン自伝』
日本でもっとも広く読まれているシュリーマンの著作が本書『古代への情熱 シュリーマン自伝』です。
シュリーマンの著書の中に含まれている自伝が、一般読者向けに編み直されています。
シュリーマンの足跡を理解するうえでは格好の手引書であり、200ページに収まる内容なので手に取りやすい作品でもあります。
後世に語り継がれることになったシュリーマンの後半生の活動は、少年時代に受けたいくつかの感銘が生んだ必然的な結果だったといいます。
古代の歴史に熱烈な興味を抱いていた父親は、ホメロスの歌う英雄たちの功業やトロイア戦争で起こった数々のできごとについて語り、シュリーマンは幼少期から「トロイアの都は実在する」と信じていました。
この経験がのちにトロイア遺跡の発掘に繋がったというのはまるで小説のような話ですが、ロマンを感じさせるものがあります。
シュリーマンは商人として大成功をおさめますが、貧しい生活の中で給料の半分を勉学にあて、特に語学の習得に励んでいます。
「みじめな境遇と、努力すればそこから抜け出せるというたしかな見通しほど勉学に拍車をかけるものはない」という彼の言葉は、人生をいかに本気で考えていたかがわかる一例です。
最終的に十数ヶ国語をマスターするほど語学に秀でていたシュリーマンの言語習得法についても、本書で紹介されています。
英語をはじめ、言語習得に興味のある方にも大変参考になると思います。
若い頃にロシアに移住し、インド藍をはじめとする商取引を通じて巨富を得たシュリーマンは、少年時代から抱いていた「トロイア戦争は実際にあったことだ」という信念を裏付けるべく古代史の研究に取り組みます。
その後、1870年からトロイアの地(現在のトルコ)で現地の人夫を雇い、妻の協力を得ながら発掘活動をはじめます。
シュリーマンが現地で送っていた生活ぶりも書き記されており、日々の生活に倦んでいる方にとっては自己啓発の側面もあります。
巨額の資材を投じ、幼い頃からの熱狂的な信念に従ったシュリーマンの大事業が世界に与えた衝撃は、本書の随所から伝わってきます!
『シュリーマン旅行記 清国・日本』
ハインリヒ・シュリーマンはトロイア遺跡の発掘に先立つこと6年前、商人として築き上げた富で世界中を旅行しています。
1865年にはじまったこの旅行において、シュリーマンは中国と日本にも滞在し、当時の様子を旅行記に書き残しました。
本書は次の八章から構成されており、各地の様子が著者の客観的な視点で捉えられています。
第一章 万里の長城
第二章 北京から上海へ
第三章 上海
第四章 江戸上陸
第五章 八王子
第六章 江戸
第七章 日本文明論
第八章 太平洋
本書を読むとわかるとおり、短い滞在期間にもかかわらず、シュリーマンが各地を歩いて得た見聞が具体的、定量的に細かく記されており、旅行を通じて彼が持ち続けた探求心や知識欲がいかに旺盛であったかに驚かされます。
日本庶民の生活ぶりにも記載があり、服装や家具についてはもちろん、日本の家屋に煙突がないことや、各家の庭に花が咲いていて日本人が園芸をこよなく愛していること、お風呂が大好きで清潔なことなどに触れています。
第七章の日本文明論では、当時の日本がどの程度文明化されていたかがシュリーマンの視点で論じられています。
「文明」という言葉の定義を明確にするところから論考を始め、商取引に多く言及しているあたりには、商人としてのシュリーマンが垣間見えます。
『シュリーマン トロイア発掘者の生涯』エーミール・ルートヴィヒ
ドイツで伝記作家として名を馳せたエーミール・ルートヴィヒによるシュリーマンの伝記です。
ハードカバーで上下段300ページ近くありますが、ハインリヒ・シュリーマンについて深く知りたい方には特におすすめしたい作品です!
シュリーマンが亡くなった後、妻のソフィア・シュリーマンと子供たちから伝記を書いてほしいという依頼があり、本書が執筆されることになったといいます。
シュリーマンの手によって書かれ、整理された膨大な量の書類を紐解き、彼が生まれてから亡くなるまでの歩みが詳細に書き綴られています。
シュリーマンの整理・収集癖は恐ろしいほどで、彼が20歳のときから亡くなった69歳のときまでほとんど休みなく書き続けた日記やノート類、ビジネスで使用した帳簿や証書、語学の勉強の跡を示すおびただしい冊数のノート、新聞の切り抜き、年表類、自ら作成した10ヶ国以上の辞書など、すべて保管されていたといいます。
シュリーマンはホメロスの詩が現実性を持っていると信じていましたが、これは彼の時代にはごくわずかの人たちしか信じていないことで、周囲からは嘲笑の対象ともみなされました。
それでも、ただただ信念を貫いた結果、トロイアを発見し、続いてミュケナイの財宝を発掘し、ティリュンスの宮殿を明るみに持ち出すことができたのでした。
ただ、本書で明らかになるのは彼の栄光だけではありません。
たとえば、シュリーマンが見つけた考古学的遺物が必ずしも彼が想像していたのと同じ時代のものではなかったという事実が書かれています。
発掘作業においても、城塞に通じる道を壊してしまったり、墳墓の装飾品を取り外して持ち去り、元の位置がわからなくなってしまったことにも言及があります。
自伝とは異なり、一流の伝記作家の視点で書かれた本書は、シュリーマンのふるまいを客観的に評価しています。
しかし、そういった側面がありながらも、本書を通読するとシュリーマンの波瀾万丈の生涯とその強烈な個性に惹きつけられてしまいます。
『古代への情熱』では詳しく触れられていませんが、たえず投機と借金を繰り返していた父親との諍いや、商人としての猛烈な仕事ぶり、最初の結婚生活、発掘作業の仕事ぶりについてもシュリーマンの残した膨大な量の手紙を引用し、詳細に書き記されています。
語学習得のための勉強法についても『古代への情熱』と比較して、より詳しく書かれています。
非常にたくさんの分量を音読すること、短文を訳してみること、毎日授業を欠かさないこと、興味を覚えた問題について常に作文を書くこと、これを先生の指導によって訂正し暗記すること、前日に直されたものを次の時間に暗唱してみせることを基本にしていたといいます。
類まれな記憶力を武器に、22歳にして7ヶ国語を話せるようになっていたことには驚愕します。
本書は1978年に最初の翻訳版が刊行されていますが、2021年に挿絵の入った読みやすい体裁の新版が出ています。
おわりに
今回はハインリヒ・シュリーマンのおすすめ名著をご紹介しました。
少年の頃にトロイアの都は実在すると信じ、商人として成功をおさめた後に巨額の私財を投じて自ら発掘調査を行い、ホメロスの世界の存在を実証したシュリーマンの作品には彼の強烈な個性が詰まっています。
この機会にぜひ読んでみてください!
なお、古代ギリシャの伝説的吟遊詩人ホメロスが歌った『イリアス』『オデュッセイア』についてはこちらでご紹介しているので、ご参考になさってください。
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