【これは読んでほしい!】経済思想家 斎藤幸平のおすすめ名著5選

読書まとめ

こんにちは、アマチュア読者です!

今回は経済思想家である斎藤幸平氏のおすすめ名著をご紹介します。

著者は日本の経済思想家で、経済思想・哲学を専門としています。

特にカール・マルクスの思想と環境問題に焦点を当てて研究をしており、ドイツのフンボルト大学で博士号を取得しています。

晩期マルクスの視点から環境問題に取り組む必要性を主張し、広く注目を集めた主著『人新世の「資本論」』をはじめとする作品で現代資本主義がはらむ諸問題を批判しています。

カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの出版物、遺稿、草稿、書簡の全集であるMEGA(Marx-Engels-Gesamtausgabe)の編集にも携わっており、晩年のマルクスが研究していた膨大な研究ノートを詳細に読み解くことで明らかになる、マルクス思想の新しい解釈が著書の多くで取り上げられています。

著者は国内外で講演を行い、社会運動にも積極的に関わることで、特に若者世代に向けて環境問題への関心を呼びかけています。

理論構築だけでなく、実際に行動することで社会を変える必要性を訴える著者の活動に注目が集まっています。

著者は学術的な作品から一般読者向けの著作まで、幅広く執筆活動をおこなっています。

理解の難易度が高くとも、著者の思考のプロセスを追体験したい方もいれば、まずは著者の考えを大まかに理解したい方もいらっしゃると思います。

著者の著作に関心はあるものの、どの作品を読もうか悩んでいる方にとっては、読む順番を含めて本記事が参考になると思うのでぜひ読んでみてください。

『大洪水の前に』

著者は本書が邦訳される前の原著(英語)において、権威ある「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞しています。

ドイッチャー記念賞を受賞することは、マルクス研究界の最高峰の栄誉であるといわれています。

本書では、晩期のマルクスが研究していた環境思想を経済学批判にとって不可欠な契機として体系的に展開し、マルクスの経済学批判の真の狙いは、エコロジーという視点を入れることなしには正しく理解することができないという斬新な視点が導入されています。

晩年にマルクスが研究していたエコロジーは、持続可能な未来社会「エコ社会主義」を構想する基礎となる考えを与えてくれると著者は論じています。

エコロジーという言葉が流通するようになる前の時代において、植物や動物、そして人間の織りなす総体的連関は物質代謝という生理学概念を用いて考察されていました。

この概念は自然科学の領域を超えて、哲学や経済学の領域にも適用され、有機体の摂取・吸収・排泄とのアナロジーで、生産・消費・廃棄といった社会活動を分析するために用いられました。

マルクスもこの物質代謝をみずからの経済学批判における重要概念とみなし、人間は他の動物と異なり、労働を媒介として意識的に外界に関わることができると考えました。

この労働の社会的なあり方が変容することで、人間と自然の物質代謝も大きな影響を受け、資本主義以前の社会と比較して資本主義がきわめて深刻な環境危機を引き起こすというのがマルクスの環境思想だったのです。

本書のタイトルは、マルクスの主著『資本論』の有名なフレーズ「大洪水よ、我が亡きあとに来たれ」がモチーフになっています。

本書をじっくり読むと、このフレーズの意味が骨身に沁みてわかってきます!

角川ソフィア文庫から文庫版も出版されているので、こちらもおすすめです。

『人新世の「資本論」』

本書は著者の代表作ともいえる作品で、環境問題と資本主義の関係をマルクス主義の視点から再解釈し、現代社会が直面している気候変動や生態系の破壊をはじめとする地球環境の危機にどう対処すればよいかが論じられています。

著者は人新世を、人類の経済活動が地球全体に影響を及ぼし、その地質や生態系を根本から変えてしまった時代であると定義しています。

実際に異常気象やパンデミック、海洋プラスチックごみなどの環境問題を考えるだけでも、人間の日々の生活が全世界的に少なからぬ影響を与えていることをイメージできるかと思います。

「人新世」は、地球に対する人間の影響が取り返しのつかないところまで到達してしまった人間中心主義を象徴する言葉です。

文明崩壊の危機にあるといわれているこの時代において、著者は固定観念としてみなされている資本主義を晩期のマルクス思想から考察しています。

資本主義の無限的成長を前提とする社会システムが地球環境を持続不可能なレベルまで破壊していることを強調し、環境問題を中心に論考が展開されている点は、著者の他の作品と比較して特筆すべきところです。

地球が現在でも保持しているコモンズ(使用価値)を万人で共有することの価値が説かれており、天然資源を含めたあらゆるものを商品化して利益を追い求める現代の資本主義について再考させられます。

理論を提唱するだけではなく、実際に行動することの大切さを強調しているところも素晴らしい一冊です。

『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』

著者が机上ではなく、実際に現場を運んで働き、現実を直視した経験を通じて現代社会の抱える問題に疑問を投げかけたエッセイ集です。

たとえば、ウーバーイーツの配達員として働き、労働者としての社会的位置を考察しています。

雇用形態の不安定さや過酷な労働状況に置かれた人々の心理が、自身の体験を踏まえてリアルに描き出されており、説得力があります。

タイトルにもあるとおり、配達中に転倒して捻挫をしても金銭的な補償はなく、無保険である不安が著者を支配します。

また、都市では利便性が追求される中では、生きている実感を得ることが難しくなっているという著者の見解に共感される方も多いと思います。

本書で著者は、さまざまな現場に足を運んでいます。

山間部に入ってシカの解体を目にしたり、水俣病の歴史的な悲劇の現場を訪れて被害者と対話したりと、普段なかなか足が向かない場所で感じたことが著者の経済思想も交えて語られているので、当たり前であるかのように認識している現代社会を違った視点で考えられます。

現場での著者の喜怒哀楽が率直に表現され、難しい専門用語や理論を振りかざすことなく、一般読者にも理解しやすい平易な言葉で綴られています。

各テーマに深い知見を持ちながら、学問に馴染みのない読者に配慮した文体からは、読者に対する温かいまなざしが感じられます。

著者のプライベートに関する話題にも言及があり、写真も多く掲載されているので楽しく読み通せます。

『ゼロからの『資本論』』

本書『ゼロからの『資本論』』は、カール・マルクスの『資本論』を著者と一緒に読み進めながら、資本主義の特徴と問題点をあぶり出し、新たな視点で現代社会を眺める目を養える作品です。

あらゆるものが商品とみなされ、貨幣によって交換される資本主義社会では、それ以前の社会ではみんなの共有財産(コモン)だった森や水に値札がつけられ、売り物になります。

資本主義にとっては、商品が売れなければ利益を生み出せないため、コモンを解体して独占し、場合によっては破壊までして買わなければならない商品にしようとします。

資本主義によって、人間の欲求を満たすための労働は、商品を通じて資本を増やすための労働へと変質を遂げ、必要なものよりも売れそうなものを重要視するようになりました。

こういった資本主義の成り立ちや歴史を知ることは、現代社会を当たり前のこととみなしている私たちにとっては目から鱗が落ちる経験になるはずです。

パンデミック、戦争、気候変動が日々の生活を脅かす時代には、人間は格差や搾取に対して敏感になり、暴力に訴えることを厭わなくなる傾向があります。

歴史上、過去に同じような野蛮状態の中で、国家の暴走に抗いながら自由や平等の可能性を必死に考え抜いた人類の叡智が『資本論』には書かれていると著者は語ります。

マルクスに向き合い、研究を積み重ねてきた著者だからこそ書ける丁寧な『資本論』の入門書である本書は、マルクスに馴染みがない方にとっては得るものが非常に多いはずです。

「あとがき」には『資本論』の読書ガイドも掲載されているので、カール・マルクスの著作について理解を深めたい方にもおすすめです。

『マルクス解体 プロメテウスの夢とその先』

本書は2023年2月にケンブリッジ大学出版から刊行された”Marx in the Anthropocene: Towards the Idea of Degrowth Communism”の日本語版です。

日本語としての読みやすさを優先して、日本語に翻訳したあと、著者が表現や内容の修正をかなり施した作品で、日本語訳というより日本語版になっていると記されています。

『大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝』に続く2冊目の学術書であり、先に英語で刊行されているため、日本国内よりも英米圏での論争や社会運動を意識して書かれています。

マルクスは資本主義システムに対する批判を体系的に展開した数少ない理論家の一人で、その知的遺産を時代遅れだとして性急に否定することは、資本主義を批判することが難しくなっている現代の社会状況をさらに深刻なものにしてしまうと著者は語ります。

しかしながら、マルクスというと資本主義のもとでの生産力の発展を歓迎する史的唯物論を展開していた印象が強いと感じる方もいるでしょう。

本書『マルクス解体 プロメテウスの夢とその先』では、生産力と生産関係のあいだの矛盾を進歩の推進力とする悪名高い歴史観に依拠するマルクス像を解体し、マルクス主義の観点から悲観主義に陥るのではなく、明るい未来を構想しようと試みています。

本書は単に晩期マルクスの研究を披露し、マルクスが現代にも通じる環境問題に関心を持っていたことで彼の世界観を神格化するためのものではなく、それを乗り越えて新しいポスト資本主義像を描くことを目指しています。

地球規模で深刻になっている気候変動や環境問題を引き起こしている人新世の時代に、社会変革の指針となるグランド・セオリーが提示されており、非常に読み応えがあります。

おわりに

今回は経済思想家である斎藤幸平氏のおすすめ名著をご紹介しました。

晩年のマルクスが残した膨大な研究ノートからヒントを得た著者の思想は、資本主義が当たり前のものとみなされている現代社会を抉り出す強烈なインパクトがあります!

学術的な内容のものから、一般読者に向けて書かれたやさしい文体のものまで様々な作品が刊行されています。

ぜひ著者の作品を読んでみてください!

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