【これぞ対談本】 内田樹 岩田健太郎 『コロナと生きる』朝日新書

対談

もう1年くらいコロナという言葉を毎日のように聞いているが、この新型ウイルスに対処するなかで人間の活動は大きく変わった。

外出は自粛し、必要な場合はマスクをかけて外に出る。三密を回避し、ソーシャルディスタンスを保つ。

働き方も変わり、リモートワークが普及して、会社に出勤しなくても仕事ができる環境が整備された。まだまだ終息まで時間がかかりそうな状況だ。

本書は思想家の内田樹と感染症専門家の岩田健太郎の対談本である。

内田氏は神戸女学院大学名誉教授で、合気道道場「凱風館」の師範であり、思想家と呼ばれているように言及する対象は広範である。

岩田氏はメディアでも取り上げられているように、コロナが日本で問題視されるようになってからフロントラインで活躍し続けている。

2020年5月から数回にわたって対談が行われ、本書は2020年9月に出版された。

現状は第4波に備えている段階だが、当時はコロナウイルスがいま以上に謎に包まれていて、政府が配布したマスクが問題になったり、緊急事態宣言が発令されて都市圏も閑散としていた。

この対談をいま読むと、日々のできごとを振り返って、短絡的に見通しを立てたりしていない。

感情的に不満や怒りを露骨に表に出すわけではなく、目まぐるしいニュースに触れながらもしっかり腰を据えて射程の長い思想が随所に見られた。

コロナと生きる時代には、「固まるな」「同調するな」「お互いに距離をとれ」「なるべく人と違うことをして暮らせ」と勧められる。

これは日本の伝統的な生き方と止めろと言われているのと同じである、と読んで考え込んだ。

この状況でも、多くの日本人はまわりの人と同じことをしようと情報収集し、コロナ禍でのおすすめの生活を送ろうとしているのではないかと。

それは安心感を得られるが、自分が何に価値を置き、より良く生活するにはどうすればいいのかを考える機会を失うことにもなる。

本書には、一見するとコロナと関係ないような方向に話が進むが、要所要所でしっかりコロナと結びつく。

これも内田氏のお家芸である。

これまでに内田氏の講演会や対談イベントに何回も足を運んできた。

さまざまなテーマで登壇されているが、いつも感じるのはその場で即興的に生まれた言葉は、たとえ話のテーマに沿っていなくとも聴き手にとっては記憶に残るということだ。

相手と話していると、その場でしか生まれない言葉が口をついて出ることがあるのは、経験としてお持ちの方が多いだろう。

その言葉に相手も、自分自身でさえも驚くことがある。

ユダヤ人研究と合気道に没頭してきた思想家と、道なき道を切り拓いて感染症の第一人者になった医学者の対談はそういった言葉が散りばめられている。

おもしろくない訳がないではないか。

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