こんにちは、アマチュア読者です!
今回ご紹介するのは、出口治明、上野千鶴子 『あなたの会社、その働き方は幸せですか?』です。
かたや大手生命保険会社に長く勤めたあと、還暦でベンチャー企業を設立し、古希を迎えて大学の学長に就任した出口治明氏。
片や女性を学問とする新たな領域を切り拓き、女性に注目が集まる社会を築くために、自分の道を突き進んできた社会学者である上野千鶴子氏。
同い年で大学も同じだった2人の対談は、日本の業界構造や日本型の経営体質についての話を土台に、変動する社会でどのように働いたら幸せになるのかがメインテーマになっています。
日本企業と生産性
たとえば、「テレワークだと生産性が下がるから、やっぱりみんなを集めて仕事をしないと」と考えている企業は山ほどあるといわれています。
出口氏いわく、「テレワークは上司も部下も、働きぶりが見えなくても成果物がはっきりわかるので、能力も可視化される。みんなで集まって仕事をしないので、上司は自分の求めるアウトプットを明確にイメージして、部下に仕事を仕分けないと業務が成立しない」。
テレワークを活用している身として、これは当たっているなと感じました。
日本企業は言語障壁と、人口の多い国内マーケットに守られています。
バブル崩壊直前の1989年には、世界のトップ企業20社のうち14社が日本の企業で占められていて、NTT、日本興業銀行、住友銀行、東京電力、トヨタ自動車をはじめ、メーカーや金融が多い状況でした。
しかしそのあとは下降を続け、2020年10月ではトヨタ自動車の49位が最高です。
言語障壁に守られて、外国企業が参入しにくいことはメリットですが、自分から進んで外国企業に挑戦しようとする土壌は育まれにくいのかもしれません。
そういった状況では、積極的に生産性を向上させる仕組みづくりに身が入らないのもうなずけます。
また、日本は中途半端にマーケットが大きいのが現状です。
少子高齢化が進んでいるとはいえ、G7(アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・日本・カナダ・イタリア)のうち人口が1億人を超えている大国はアメリカ以外では日本しかありません。
これだけの人口があれば、国内だけでもある程度ビジネスが成り立つことになるでしょう。
日本型経営についても言及があります。
日本企業は時代の幸運が重なって高度成長しましたが、それをノウハウ化することを怠りました。
日本型経営なるものは、マニュアルがなく、見様見真似で伝承されたまま現在の社会に蔓延しているという本書の見解に首肯する方は多いのではないでしょうか。
経営者と実務者の視点
働き方に関しては、上野氏の「育休中の賃金保証で、会社は賃金が浮く」という発想は思いつきませんでした。
育休を取得しているときの賃金保証は、全部雇用保険でまかなわれているので、会社側の懐は痛みません。
それなのに人員補充をしないので、育休を取得しない人からは怨嗟の声が上がります。
学校で育休を取る先生がいれば、すぐに代替教員が補充されますが、民間企業では10人でやっていた仕事を9人で回せば生産性が上がると考えがちです。
しかも育休で浮いた賃金がハードワークをする従業員に還元されないというのは、よく考えてみると変だと思いました。
仕事を見直すチャンスと捉えることもできますが、それはあくまで経営者目線の話で実務者の視点は考慮されていないのです。
金言のオンパレード
本書の後半では、対談者がこれまでどうやって働いてきたかが語られます。
上野氏は、やりたいことがあるときに、孤立しないためにはどうすればよいかを考えてきたといいます。
理解してくれる人がまわりにおらず、バッシングなど風当たりが強かった状況で、彼女は味方をつくる努力をしてきたそうです。
「相手の信頼を裏切らないように、丁寧に仕事をする。信頼は蓄積する。信頼が蓄積するような仕事の仕方をしてください。」という言葉に深くうなずきました。
出口氏は、「仕事は人生の3割」だと本書を含め、機会がある度に発言しています。
そのくらいに考えれば、合理的に仕事ができるというのは金言でした。
仕事がすべてだと考えると、失敗を恐れ、上司の顔色を窺い、頭が悪いと思われることを嫌がるようになります。
しかし、「仕事なんかどうでもいい」と割り切ることができれば、思いっきり好きなことができます。
誰が何と言おうと正しいと思ったことはそのまま突っ走れるので、仕事が合理的になります。
「言うは易く行うは難し」とは言いますが、出口氏はずっとそうやって仕事をしてきたと語っています。
これだけ読むと独立自尊のイメージを持ちますが、挫折を多く経験してきた結果、自分の能力にあきらめを感じたといいます。
保険業界で仕事を始めたのも、司法試験に落ちたからだったそうです。
学力テストで県内1番になれなかったことや司法試験に落ちたことは、凡人から見ると挫折に見えないが、本人がそう感じれば挫折になります。
好きなことと仕事の関係
「好き」は仕事にできるのかについても議論されています。
お金になるとは、他人があなたにお金を払ってくれるということで、人の役に立つことを身につけるのが大切だというのがお二人の経験にもとづく意見です。
最近はYouTubeで、「好きなことを仕事にする」というフレーズをよく目にします。
やりたいことや好きなことがあってチャレンジできたら、それはそれで幸せでしょう。
それで生計を立てるために、収益化している人も少数ですがいますよね。
少数だからこそ、その人達の成功がニュースになり、憧れの的になります。
ただ、好きなことはお金にならなくてもやるものです。
読書でもスポーツでも、ゲームでも虫取りでも、好きなこと自体に理由があるわけではありません。
理由を見つけたとしても、それは後付けであり、うまく説明できないというのが真理ではないでしょうか。
その好きなことを続けた結果、うまくいくこともあるし、そうでないこともあります。
やりたいことがあるのならば、自分で稼ぐ道を考えるというのが正しい順序でしょう。
人は誰かにサービスを提供して、その対価をもらって生活しています。
誰がお金を払ってくれて、それにふさわしいサービスを自分が提供しているのだろうかを見極めることが大切なのだと思います。
おわりに
本書の最後に、「自分の頭で考えて、自分の言葉で言いたいことを言って、機会があればチャレンジするのが幸せな人生だ」と出口氏が語っていたのが印象に残りました。
将来が不安だという人もこの本を読めば、「けっこう無茶なことをやっても何とかなるかもしれない」と前向きな気持ちになれるに違いありません。
ぜひ読んでみてください!
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